
アメリカで活躍するイスラエル出身のベーシストによるピアノ・トリオ
Gently Disturbed / Avishai Cohen
相変わらず世界的なピアノ・トリオ作の供給過多状況とも言える昨今だが、今回はベーシストのリーダー作ということでお付き合い願いたい。
ここ2年ほどの間、自分の中で燻っていたテーマが「アメリカで活躍するイスラエル人の台頭」であった。そう考えていた関係者は現地にもいたようで、最近の米専門誌に特集記事が掲載された。
本作のリーダーであるアヴィシャイ・コーエンは、90年代末チック・コリアに抜擢されオリジンに加入。その後はコンスタントにリーダー作をリリースしている1971年生まれだ。同姓同名のトランペッターも活躍中だが、血縁関係ではない。ちなみにそちらのアヴィシャイはユヴァル(ss)、アナット(ts,cl)とのジャズ3兄弟としても注目されており、米国在住イスラエル人ニュー・ウエイヴの核とも言える存在である。
今作からピアニストが21歳のマエストロに交代しているが、基本的なトリオ・コンセプトに変化はない。プログラムの大半を占めるコーエンの自作曲は、モダン・ジャズの流儀に依拠しないストーリーテリング調で、視覚的インスピレーションを喚起するもの。ドラマティックな曲展開の手法は、スウェーデンのe.s.t.以降、世界的に広まったメソッドではあるが、コーエン・トリオの場合、母国イスラエルの伝統音楽の要素を取り入れたメロディ・ラインを打ち出すことによって個性を獲得しているのが重要。
若きピアニストの才人がその実力を初めて明らかにした点で、本作は後世に残る価値が生まれるだろう。2年前の「ブルーノート東京」での公演は、演奏の高いクオリティに反して集客が弱かった。そのステージの新鮮な興奮が改めて甦る内容だけに、この場を通じて本作の魅力を広くアピールしたい。
【収録曲一覧】
1. Seattle
2. Chutzpan
3. Lo Baiom Velo Balyla
4. Pinzin Kinzin
5. Puncha Puncha
6. Eleven Wives
7. Gently Disturbed
8. The Ever Evolving Etude
9. Variations In G Minor
10. Umray
11. Structure In Emotion
アヴィシャイ・コーエン:Avishai Cohen(b) (allmusic.comへリンクします)
シャイ・マエストロ:Shai Maestro(p)
マーク・ギリアーナ:Mark Guiliana(ds)
2007年9月スウェーデン録音