『埠頭を渡る風』(松任谷由実)、『Merry Christmas Mr. Lawrence』(坂本龍一)、『スカンピン』(鈴木慶一とムーンライダース)、さらに大滝詠一の「朝日麦酒三ツ矢サイダー,73」のCM楽曲……。そんな傑作が音響ハウスから生まれた。

 この映画はある男の出勤風景から始まる。春夏秋冬、雨の日も風の日も雪が降っても同じ時刻に和光のショーウィンドウ前を通り、銀座1丁目の音響ハウスへ出勤する。眼鏡をかけ、長身で少し背の後ろ姿はいかにも実直な昭和の男の風情である。

 彼は遠藤誠というメンテナンスエンジニア。設立翌年の75年に入社、40年以上にわたって数えきれない録音機材の修理に携わった。「直せないものはない」。そんな信条を持つ彼の作業から音響ハウスの歴史が上書きされている。

 監督の相原裕美はレコーディングエンジニアを経験後、ビクターエンタテインメントでサザンオールスターズや斉藤和義のミュージックビデオに関わった。

 初回の試写会はレジェンドたちの同窓会のようだった。ドキュメンタリーのプロデューサーを買って出たギタリストで音楽プロデューサーの佐橋佳幸さんと大貫妙子さん、ともに番組でお世話になった2人の間の席でこの作品を観るという幸福な時間を味わった。二つ後ろには高橋幸宏さんが座っていた。

週刊朝日  2019年12月6日号

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