しかし、事態は改善したのだろうか? 国の実力ともいえる名目GDPは97年当時に比べ多少増えたが、税収はあまり増えていない。97年度に53.9兆円だった税収は、19年度予算では62.5兆円。一方で、借金総額は2倍になってしまった。財政の危機的状況を橋本元首相が認識していた当時より、返済が2倍も難しくなったということだ。
危機感がなくなったのは、13年から政府・日銀が「異次元緩和」という名目のもと、実質的な財政ファイナンスを始めたからだ。政府の借金を中央銀行が紙幣を刷ってファイナンスしたため、危機はいったん回避できたかもしれない。だが危機の先送りにすぎず、日本人得意の「飛ばし」だ。
ハイパーインフレを起こした経験から世界中で禁止されている政策を、まさか日銀が始めるとは、当時の私も、橋本元首相も、朝日新聞も思いもしなかった。金融をかじったものならば、「禁じ手中の禁じ手」を中央銀行が実施するとは、想像だにしなかったはずだ。
損失を先送りする限界がきて山一証券がつぶれたように、「飛ばし」はいつまでも続けられない。限界を超えた時の痛みはすさまじいものとなる。
私は何事も起こらなそうに思える今でも、「シートベルトをお締めください」と警告し続けている。事態は改善されるどころか、さらに悪化しているのだから。
※週刊朝日 2019年10月11日号