“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、「財政破綻」への危機感がなくなったことに警鐘を鳴らす。
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<20XX年──。ある週末の夜、首相官邸の記者会見場は熱気に満ちていた。緊急会見に臨んだ首相が震えた声で切り出した。(中略)だが、会見の最中から外国為替市場で円安ドル高が一気に加速。週明けの市場でも国債が投げ売りされ、長期金利は跳ね上がった。株価も過去最大の下落幅に。市場は「日本売り」一色となった。「お札が紙くずになる」「預金封鎖も近々ある」。うわさがネット上を飛び交い、現金を引き出そうと、銀行には長蛇の列ができた。貴金属店は、金塊や宝石を買い求める人でごったがえした。輸入品などの物価が高騰。ガソリンは連日1リットル当たり10円以上値上がりし、野菜や肉、魚も2倍以上の値段に。スーパーには「クレジットカードや電子マネーでの支払いはお断りします」との張り紙。人々は現金をかき集め、日用品の買い占めに走った>
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こんな「破局のシナリオ」が現実になるかもというと、またフジマキが大ボラを吹いている、と思われた読者も多いだろう。しかし、このシミュレーション記事は2010年3月7日付の朝日新聞の1面に「悪夢『20XX年日本破綻(はたん)』」(五郎丸健一記者)というタイトルで載ったものなのだ。
あれから9年半。この警告は現実になる気配はない。まさか、「あおり記事」だったのか?
そうだとしたら、1997年から「財政破綻の危機」を警告していた私は世の中をあおりまくっていたことになる。第2条に「財政が危機的状況にある」と書かれた財政構造改革法(結局凍結)を成立させた故橋本龍太郎元首相も同じだろう。
朝日新聞、橋本元首相、私の警告が外れていることはうれしいことだ。当時は国民の間に多少はあった危機感も、なくなってきたように思える。「デフレなのにハイパーインフレになるわけがない」などと、私もよく非難される。