

履正社(大阪)の強打に屈した高岡商(富山)に、ファインプレーで球場を沸かせた2年生がいた。16日の第101回全国高校野球選手権大会3回戦。左翼手・藤井康平(2年)が、守備でチームを鼓舞し続けた。
高岡商のエース・荒井大地が履正社打線につかまったのは、三回裏だった。2番打者から始まる攻撃で、5番の中前適時打で1点、7番の右中間への適時三塁打で2点を失う。
なおも2死三塁。8番がすくい上げた打球は左翼へ。長打を警戒していた藤井は右前方へ猛ダッシュすると、体勢を崩しながらもグラブを下向きに差し出して好捕した。
思わず頭から1回転するファインプレー。履正社応援団で埋め尽くされた三塁側アルプススタンドも含め、球場中から拍手が送られた。
三塁手の井林泰雅は言う。
「ピッチャーの荒井も苦しい中でがんばっていた。全員でアウトとりにいった結果、ああいう形になったんじゃないかなと思います」
直後、その藤井が今度は5番打者として貢献する。2番・井林が四球で出塁すると、単打と中飛で1死一、三塁。打席に立った藤井が3球目を強振すると、打球は右翼深めの犠飛に。1点が入った。
直後に2点を取られて突き放されたが、再び六回1死一、三塁の好機で藤井が打席へ。今度は中堅深くへの犠飛で、またも1点を挙げた。
「後ろにつなぐことだけ考えてました。ベルトより下に来た球をしっかり振ろうという意識で打席に立ちました」
それでも苦しい展開は続いた。その裏、相手4番に2点本塁打を浴びた。2番手・松代賢がマウンドに上がった七回は、左飛と三振でテンポ良く2死奪った後に3与四死球。ここでも4番に左前適時打を許す。
なおも続く2死一、二塁の窮地を救ったのは、またも藤井だった。
「抜けるかなと思ったんですけど、打球がスライスして自分のほうに向かってくる感じだったので、飛び込んだら行けるなと思いました」
5番が打ち返した左中間への大飛球を背走で追い、ダイビングキャッチ。再び球場を沸かせた。藤井はこう振り返る。
「2アウトだから捕ったら終わり。チーム全体で、攻撃だけじゃなく守備でも攻めていこう、と日々練習してきました」
浜風やその逆方向の風で、幾多のチームが悩まされる甲子園の外野守備についても、こう言う。
「楽しくて無我夢中に集中できて、とてもやりやすい場所でした」
5番を打つ藤井の前の4人は、昨夏も先発で甲子園を経験した3年生。
「チャンスで回ってくるのはわかっていた。もともと勝負強さには自信がありますが、さらにその勝負強さを高めようと日々練習してきました」
富山大会では1~3回戦の3試合で4安打2打点の活躍を見せた。準々決勝以降は無安打と苦しんだが、甲子園で復調し、1、2回戦はそれぞれ1安打。この日の履正社戦を含むチーム14点のうち6点は藤井の打点だ。
「2年連続3回戦で負けてしまった。来年また戻ってきて、次こそ3回戦を突破して、日本一をめざしてがんばってほしい」(井林)
「人一倍気持ちの強い選手で、人一倍練習してきた選手。本当に彼にはよく助けられた。次はチームの中心選手。(去年の甲子園を経験した)僕たちは去年の敗戦で強くなった。大きくなって強くなって戻ってきてほしい」(森田主将)
藤井とともに、2年で二塁手の鈴木颯馬と1年で遊撃手の石黒和弥も、大舞台を経験した。
「先輩たちに引っ張られてばかりだったけど、とても楽しかったし、自分の力をしっかり出せた。来年はもっと大きな選手になって帰ってきたい」(藤井)
TAKASHOの挑戦のバトンは、藤井たち下級生に引き継がれた。(本誌・緒方麦)
※週刊朝日オンライン限定記事