第40回大会準々決勝再試合の魚津戦で六回、大宮は滑り込んで生還する
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第40回大会の2回戦、秋田商戦での板東。この試合は17奪三振で1安打完封だった

 6日に阪神甲子園球場で開幕した第101回全国高校野球選手権大会。週刊朝日増刊「甲子園2019」(発売中)では徳島商の名投手、板東英二の1千球を受け続けた捕手が当時の甲子園の思い出を振り返った。

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「何年ぐらいかなあ。卒業しても、しばらくは左手の人さし指が紫色だったんだよ」

 大宮秀吉(79)は60年以上前を懐かしむように、左手をさすった。

「指が腫れて曲がらないの。体育の授業で鉄棒ができない。ロープを上る練習なんかも免除してもらった。冬の間は特に大変。1日1千球捕らなきゃならないんだから」

 徳島商でバッテリーを組んだ相手は、あの板東英二(79)。第40回大会で延長十八回引き分け再試合を含む6試合を投げて準優勝に貢献し、今も大会記録として輝く83奪三振を記録した剛腕だ。

「須本憲一監督の指示がすごいの。月曜は1千球投げなさい。火曜は900球、水曜は800球と100球ずつ少なくしていく。1週間たったら、また1千球。それを全部、僕が受けるんだから」

「おそらく、ほかの捕手じゃ受けられない。板東のボールは伸びがすごいから、油断するとミットをはじかれる。上から押さえるようにして捕らないと、だめなんだ。全身に響くような衝撃があるの。それを1千球だよ」

「痛いのなんの。第1、第2、第3と人さし指の関節があるでしょ。その線が切れるんだ。板東のボールを受けると血が飛ぶ。ユニホームが赤くなるんだ」

 板東は不満を言わず、ひたすら投げた。投球練習が終わると、外野をずっと走っていたという。

「上級生になっても手を抜かなかった。主将だったというのもあるけど、将来は大学かプロ野球で活躍したいという明確な目標があったからだろうね。フォームをチェックするのが、僕の役目だった。『板東、今日はひじが下がっとるぞ』というと、素直に聞いてくれた」

「似ているタイプがいるとしたら江川卓だろうね。オーバースローのきれいなフォームで、コントロールもいい。腕力や怪力でなく、下半身で投げるタイプだよ」

 高校時代はストレート一本だったと板東は回想するが、「それは違うかな」と大宮は語る。

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