ジャーナリストの田原総一朗氏は、安倍晋三首相が参院選でこれまでになく、憲法改正を強調していた点に着目する。
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安倍自民党は2012年12月から17年までに、5回の国政選挙を行ってきた。安倍首相はどの選挙でも「経済政策」を前面に打ち出してきた。
安保法の改革や共謀罪の新設など、野党が全面的に反対し、少なからぬ国民が反対した法案の成立に取り組むときでも、選挙のときにはまったく触れず、もっぱら経済政策を打ち出した。そして、5回とも安倍自民党が勝ち続けてきた。
ところが、今回の参院選は様相が大きく違った。安倍首相は、街頭演説でも「憲法改正」を真正面からうたい、「安全保障」の重要性を強調していた。これまでの選挙ではなかったことだ。
話は大きく飛ぶが、自民党の原点から再点検しよう。
自衛隊が発足したのは1954年である。そして翌55年に自由党と民主党が合併し、自由民主党が誕生した。初代の総裁・総理は鳩山一郎で、彼は自主憲法をつくると打ち出した。憲法と自衛隊は矛盾していると捉えたからである。それを継いだ岸信介首相も、憲法改正を強調した。
だが、両政権とも短命で、池田勇人首相からは、自民党の歴代首相は誰一人、憲法改正を表明していない。
竹下登首相や宮沢喜一首相などに、「憲法と自衛隊は大矛盾しているのに、歴代首相はなぜごまかし続けているのか」と問うと、「憲法9条2項で、日本は戦力を持たない、交戦権を持たない、と明記している。自衛隊は戦えない、戦争ができない、だから日本は平和なのだ」と答えた。
旧日本軍は戦える軍隊だった。だから勝てる見込みのない戦争を戦ってしまったのだというのである。戦争を知っている世代が首相でいるかぎり戦争はしない、とも言った。
安倍首相は、本心では自衛隊は戦える組織にすべきで、憲法は改正すべきだ、と考えてはいたのだが、それを打ち出すと国民の反発を食らって選挙で敗れる、と危惧して、憲法改正を表明しなかったのである。