前回までに紹介した3本の韓国の大ヒット映画『タクシー運転手』『弁護人』『1987、ある闘いの真実』は、1980年代に起こった韓国の一連の民主化闘争の悲劇と勝利を描いて、それがどれほど烈しく燃え上がったかを、韓国のすべての世代に伝えてきた。このような史実に取り組む韓国の映画人の気概は、世界でも一頭地を抜いているとほれぼれする。
【写真】植民地支配の拠点だった京城(現ソウル)の朝鮮総督府庁舎
これらの作品が教えた意味は、韓国人であれば知らぬ者のない光州事件、学林事件~釜林(プリム)事件、六月民主抗争を通じて、人権弁護士だった盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領と、彼と共同で法律事務所を開いていた相棒弁護士の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の人生の軌跡を映し出していたところにある。二人とも投獄されながら、国民のためにどれほど身を挺して闘ってきたかを再認識させる作品群であった。
ところが、これほどの常識を知らずにテレビ報道をしているのが、隣国のわが国なのだから、驚きませんか? だって、昨年10月から、文在寅大統領に対する批判に熱を上げてきたのが、日本の全テレビ局なのですよ。テレビだけではなく、どの新聞もほとんど同じレベルであった。
改めて言っておくと、韓国には、現在も人間の思想を裁くおそろしい「国家保安法」という法律があって、この法は、北朝鮮を「反国家組織」、つまりこの世に存在してはならないものと規定し、韓国の国民が許可なく(家族であっても)北朝鮮の人間や資料に接することを禁じ、最高刑は死刑という時代錯誤の法律である。国家保安法が公布されてから、1年間で逮捕者が11万人に達したことを、日本のテレビ報道界の何人が知っているだろうか。
この法を廃絶するため闘ってきたのが盧武鉉と文在寅なのである。それが、韓国の民主化闘争、つまり軍事独裁政治を終わらせた闘いだったのである。
では、拷問を駆使するこの国家保安法を生み出したのが誰か知っていますか? 悲しいかな、日本人なのである。大正時代の日本で、反政府思想を取り締まるために制定した治安維持法が生みの親であった。作家の小林多喜二たちを拷問によって虐殺した日本の特高警察をそっくりまねて、韓国の初代大統領・李承晩(イ・スンマン)が、1948年に国家保安法を施行して、「米軍の撤退と南北朝鮮の統一」を主張する平和主義者をすべて犯罪者にしたのだ。