TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は「TOKYO FMの最長寿番組『ジェットストリーム』の秘密」。
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TOKYO FMは来年開局50周年を迎えるが、それ以前から放送を続けている番組がある。大学の実用化試験局時代から半世紀以上続く、『ジェットストリーム』だ。
「ジェットストリーム、ジェットストリーム……」と城達也さんのナレーションを村上龍さんが懐かしそうに口ずさんでいた。
「佐世保から東京に出てきた時、よく聴いていたよ」
午前零時の時報後に、「ジェットストリーム……」と遠くから城達也さんの声が聞こえ、『ミスター・ロンリー』のメロディーとともに夜間飛行がテイクオフする。
冒頭のコピーは「夜の静寂(しじま)のなんと饒舌なことでしょうか」。「静寂と饒舌」という奇跡の逆説。これは夜空の星の瞬きのことをいうのだろうか。
プロデューサーとして『ジェットストリーム』を担当することになって、この番組のスクリプトを書いているFさん宅を訪ねた。目黒・八雲の閑静な住宅街。Fさんはソファに僕を座らせ、足を組んでハイライトに火をつけた。180センチを超える。昭和ヒトケタ生まれにしてはずいぶん長身だ。奥さんがコーヒーを淹れてくれ、「この人は毎晩深夜になって、やっと原稿を書き始めるのよ」と言った。
「城さんはフリートークを一切しない。だから台本は完璧でなければならなかった。その代わりお前の文章を世界一上手く読んでやると言う。毎回が城さんとの真剣勝負だった」
Fさんが放送時間に合わせ午前零時に台本を書き、城さんはスタジオの照明を落としてマイクに向かい、夜の雰囲気で原稿を一言一句違わず読んだ。
Fさんは、これが俺の商売道具だと言って、小さな巻き尺を見せてくれた。「海外などいろんなところに行ったけど、これがないとね」
彼がNYに出かけた時のことだ。セントラルパークに置かれた一台の自転車を見つけ、おもむろにポケットからこの巻き尺を取り出した。車輪の直径を計測するのだ。Fさんは巻き尺で世界各都市の様々なモノ(食器、ペーパーバック、ドアノブ、ナプキン、はたまた地下鉄の切符など)を測って原稿を書いた。彼の物語はそういうところから始まった。毎日毎晩、何十年。膨大な放送原稿のネタが尽きない不思議がわかった気がした。