延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFMエグゼクティブ・プランナー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFMエグゼクティブ・プランナー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
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『ジェットストリーム』の名ナレーターの城達也さん (c)TOKYO FM
『ジェットストリーム』の名ナレーターの城達也さん (c)TOKYO FM

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は「TOKYO FMの最長寿番組『ジェットストリーム』の秘密」。

【写真】『ジェットストリーム』名ナレーターの城達也さん

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 TOKYO FMは来年開局50周年を迎えるが、それ以前から放送を続けている番組がある。大学の実用化試験局時代から半世紀以上続く、『ジェットストリーム』だ。

「ジェットストリーム、ジェットストリーム……」と城達也さんのナレーションを村上龍さんが懐かしそうに口ずさんでいた。

「佐世保から東京に出てきた時、よく聴いていたよ」

 午前零時の時報後に、「ジェットストリーム……」と遠くから城達也さんの声が聞こえ、『ミスター・ロンリー』のメロディーとともに夜間飛行がテイクオフする。

 冒頭のコピーは「夜の静寂(しじま)のなんと饒舌なことでしょうか」。「静寂と饒舌」という奇跡の逆説。これは夜空の星の瞬きのことをいうのだろうか。

 プロデューサーとして『ジェットストリーム』を担当することになって、この番組のスクリプトを書いているFさん宅を訪ねた。目黒・八雲の閑静な住宅街。Fさんはソファに僕を座らせ、足を組んでハイライトに火をつけた。180センチを超える。昭和ヒトケタ生まれにしてはずいぶん長身だ。奥さんがコーヒーを淹れてくれ、「この人は毎晩深夜になって、やっと原稿を書き始めるのよ」と言った。

「城さんはフリートークを一切しない。だから台本は完璧でなければならなかった。その代わりお前の文章を世界一上手く読んでやると言う。毎回が城さんとの真剣勝負だった」

 Fさんが放送時間に合わせ午前零時に台本を書き、城さんはスタジオの照明を落としてマイクに向かい、夜の雰囲気で原稿を一言一句違わず読んだ。

 Fさんは、これが俺の商売道具だと言って、小さな巻き尺を見せてくれた。「海外などいろんなところに行ったけど、これがないとね」

 彼がNYに出かけた時のことだ。セントラルパークに置かれた一台の自転車を見つけ、おもむろにポケットからこの巻き尺を取り出した。車輪の直径を計測するのだ。Fさんは巻き尺で世界各都市の様々なモノ(食器、ペーパーバック、ドアノブ、ナプキン、はたまた地下鉄の切符など)を測って原稿を書いた。彼の物語はそういうところから始まった。毎日毎晩、何十年。膨大な放送原稿のネタが尽きない不思議がわかった気がした。

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