ドン・チェリーに触発されて生まれた好企画作
Complete Communion To Don Cherry / Aldo Romano
アルバム・タイトルに謳っている通り、これはイタリア出身でパリジャンのヴェテラン・ドラマー、アルド・ロマーノが、ドン・チェリーの『コンプリート・コミュニオン』に触発されて生まれた作品だ。同作は45年前の1965年録音。チェリーが95年に逝去してから15年が経つ節目を意識したのかもしれない。
ロマーノには本作を制作する必然的な理由があった。50年代からパリで音楽活動を始めていたロマーノは、60年代に訪仏した著名米国人の助演仕事を数多く経験。65年にやって来たチェリーは、ガトー・バルビエリら当時の若手実力者とヨーロピアン・クインテットを結成し、パリやコペンハーゲン等のステージに立って、本場米国産フリー・ジャズの中心人物たる存在を際立たせた。そのバンドの一員がロマーノだったのである。『~コミュニオン』の半年前には、チェリー名義のパリ・ライヴ盤『Togetherness』に参加した。
本作にはもう1つのテーマが含まれている。オーネット・コールマンだ。チェリーのナンバーが『~コミュニオン』からの3曲を含む7曲に対し、オーネットのナンバーは4曲をカヴァー。50年代末にフリー・ジャズを打ち出したオーネット・グループのメンバーだったのがチェリーであり、2本立ての選曲にしたロマーノのコンセプトは筋が通っている。89年のオーネット曲集『トゥ・ビー・オーネット・トゥ・ビー』の実績と繋がるのは言わずもがな。また人選も興味深い。
フロントに新世代の2人を起用し、2リズムを経験豊富なテキシェとがっちり固める。ただしボッソの参加を意外に思う向きは多いだろう。所属するグループ“ハイ・ファイヴ”が象徴するように、ハード・バップを基礎として70年代のフレディ・ハバードを敬愛するボッソの音楽性と、ドン・チェリーに共通性が認められないからだ。しかし聴き進めるうちに、スタイルの違いを超えたボッソの力量を買ってロマーノが起用したことを思い知らされる。多彩なテクニックで45年前の楽曲を現代に甦らせた#1だけで、このトランペッターが適材であることを証明。現ロマーノ・グループの一員である女性アルト奏者のローランはレニー・トリスターノのクール・コンセプションとオーネットを吸収しており、ソロばかりでなく、ボッソとの激しくアイデアを凝らした掛け合いも自信に溢れて堂々としたものだ。鋭く、大きなグルーヴを生み出してバンド・サウンドを鼓舞するロマーノの、マスター・ドラマーぶりも堪能できる好企画作だ。
【収録曲一覧】
1. Rememberance
2. Elephantasy
3. Music Man
4. Spring Is Here
5. Jayne
6. Complete Communion
7. Don Song
8. The Blessing
9. Mothers Of The Veil
10. Gush!!
11. Art Deco
12. When Will The Blues Leave
アルド・ロマーノ:Aldo Romano(ds)(allmusic.comへリンクします)
ファブリッツィオ・ボッソ:Fabrizio Bosso(tp)
ジェラルディン・ローラン:Geraldine Laurent(as)
アンリ・テキシェ:Henri Texier(b)
2010年2月録音