「お姉ちゃん、いらっしゃーい」
と、スヌーピーになり代って挨拶する。すべてを呑み込んでいる担当編集者はすかさず、
「こんにちは、スヌーちゃん、お元気?」
などといってお土産を出す。スヌーへのお土産です。スヌー用の腕時計とか帽子とかチャンチャンコとか。お土産を何にするかが大変なんです、といっていた編集者がいました。
ある時、中山あい子さんと二人で田辺家に一泊することになりました。私たちはかねてから聞いているスヌーとの挨拶ごっこを思い、我々にも「おばちゃん、いらっしゃい」をやるのか、賭けよう、などといいながら田辺家へ向いました。
行ってみると話題の大きなスヌーが居間の真中に立っている。しかしお聖さんはその背中に隠れる様子はなく、さすがに我々にはやらないんだな、と私は安心していたのですが、突然、お聖さんは中山さんに近づいて、
「おばちゃん!」
と作り声で呼びかけました。あッと思って見ると、彼女の手に小さなスヌーピーがあって、それを中山さんに押しつけながら、
「いらっしゃーい、おばちゃん!」
と可愛らしくつづいていうのでした。中山あい子という人は豪快な人ですから、
「何だよう! こんなもの…」
いうなり、さしつけられたスヌーを払ったのでスヌーはふっ飛んで私の膝に落ちて来た。
「わーッ」と思わず私は逃げ腰になって、スヌーを掴んで投げ飛ばそうとしてはっと気がつき、どうしてよいかわからず、私の膝の横、坐卓の脚にもたせかけたのでした。
まったく、息詰る一瞬とはこのことです。お聖さんがどんな顔をしていたか、見る余裕はありませんでした。
「はじめのうちは我慢してた。しかしスヌーに挨拶をさせたいという欲求の強さは抑え切れなかったんだね」
私と中山さんは帰りの新幹線の中でいい合って、なんて我々は心ないばあさんだったかを悔いたのでした。その後で中山さんはいいました。
「しかし田辺さんはさすがに、あんたに向ってはやらなかったねえ。わたしの方がまだ優しさがあると思ったんだよ、きっと」