2002年、アレサ・フランクリンやロバータ・フラックを手掛けてきたアリフ・マーディンのプロデュースのもとアルバム『ノラ・ジョーンズ(原題 Come Away With Me)』でデビュー。

 ジャズ、ソウルなどの音楽性を背景に、ポップな要素も持ち合わせたピアノの弾き語りによる演奏スタイル、親しみを覚えるキュートで甘い歌声が話題となり、「ドント・ノー・ホワイ」がヒット。同曲、アルバムは第45回グラミー賞でレコード、楽曲、アルバム、ポップ・ヴォーカル・アルバムなどで最優秀賞を獲得し、大きな話題を呼んだ。

 その後、テキサス育ちを反映したカントリー・スタイルによる曲を主体とした『フィールズ・ライク・ホーム』(04年)、自作曲を中心にシンガー・ソングライター的な志向による『ノット・トゥ・レイト』(07年)など話題作を相次いで発表し、ベスト・セラーにしてきた。

 もっともR&B/ソウル・ミュージック寄りでバンド・サウンドを主体とした『ザ・フォール』(09年)、オルタナ・スタイルやエレクトロ的な要素も取り入れた『リトル・ブロークン・ハーツ』(12年)での変身ぶりに戸惑うファンも少なくなかったが、『デイ・ブレイクス』(16年)ではピアノの弾き語りスタイルの復活だけでなく、初期のジャズ、ソウル的なものに加えアメリカのルーツ音楽的な要素を取り入れていたことで話題を呼んできた。

 今回の『ビギン・アゲイン』は“新しいことにチャレンジして、新しい音楽をレコーディングしたい”というインスピレーションを感じ、ボイス・メモにいくつかのアイデアを録音してスタジオに入り生まれた“何のプレッシャーもなく、ジャンルの境界線を超越した曲”だと語り、音楽性は多岐にわたる。

 コラボレーションのパートナーとして迎えたのは、ソロ・プロジェクトのダヴマンや幅広くセッション活動を行っているキーボード奏者のトーマス・バートレット。シカゴを本拠にするルーツ・ロック・バンド、ウィルコのジェフ・トゥイーディー。さらに前作『デイ・ブレイクス』からのメンバーだ。

次のページ
「現代を憂いながら、意思を持って生きたい」と主張