
チック・コリアがビル・エヴァンスに捧げるオマージュ
Further Explorations / Chick Corea/Eddie Gomez/Paul Motian
チック・コリアの最新トリオ作である。「私自身の音楽遍歴において、ビル・エヴァンスが果たしたピアノ芸術における驚くべき貢献は、今も自分にとって重要な試金石の1つになっている。創造性のやりとり、本物の音楽に対する探求心、そして新たな発見。これら3つの要素が、何年にもわたって持ち続けてきた私のアイデアに、1つの結果をもたらした」(チック)。
昨年5月、チックはNY「ブルーノート」に2週間出演。エヴァンスへのトリビュート・ライヴのために、エディ・ゴメス+ポール・モチアンとのトリオを結成した。
ゴメスはエヴァンス・トリオ史上、最も長い11年間在籍したベーシストであり、チックとは60年に出会って以来共演を重ね、70~80年代の『フレンズ』『スリー・クァルテッツ』の参加ベーシストとして知られる。
モチアンは言うまでもなく『ポートレイト・イン・ジャズ』『ワルツ・フォー・デビイ』のエヴァンス・ファースト・トリオのドラマー。チックは同トリオの熱心なリスナーで、70年代にキース・ジャレットが率いたアメリカン・クァルテットのモチアンは、「いつも私の好奇心をとらえて離さなかった」(チック)。エヴァンスのキャリアにあって重要な2人の意義ある参加は、このプロジェクトが2人の初共演を実現させるという付加価値を同時に生んだ。
『ポートレイト~』が初演のエヴァンス曲<ペリズ~>が、ドラム・ソロで始まるのは、チックがモチアンに敬意を表したからだろうか。過去のチック・トリオに名を連ねるロイ・ヘインズ、デイヴ・ウェックル、スティーヴ・ガッドとは明らかに異なるタイム感覚を持つモチアンは、オーソドックスな定型リズムを刻まず、空間を埋め尽くさない奏法ゆえに、新鮮な風景を現出する。
ゴメスに最大級の影響を与えたスコット・ラファロが、エヴァンス・トリオで作曲家としての才能を発揮した<グロリアズ~>も興味深い。ピアノ独奏で始まり、モチアンは約半世紀前と同じくブラッシュを使用しながら、本トリオのための新たな協調関係を演出。ゴメスはここぞとばかり、ソロで存在感を示しており、時空を超えてエヴァンスの遺伝子が開花した様子を喜びたい。
チック作曲の<ビル・エヴァンス>をはじめとする各メンバーの自作曲や、エヴァンスの未発表曲<ソング No.1>など、本稿では語り尽くせない聴きどころが満載だ。7月中旬発刊の拙著『ジャズと言えばピアノトリオ』(光文社新書)で、チックのトリオ重要作を紹介しているので、ぜひそちらも参照していただきたい。
【収録曲一覧】
Disc 1:
1. Peri’s Scope
2. Gloria’s Step
3. They Say That Falling In Love Is Wonderful
4. Alice In Wonderland
5. Song No.1
6. Diane
7. Off The Cuff
8. Laurie
9. Bill Evans
10. Little Rootie Tootie
Disc 2:
1. Hot House
2. Mode VI
3. Another Tango
4. Turn Out The Stars
5. Rhapsody
6. Very Early
7. But Beautiful Part 1
8. But Beautiful Part 2
9. Puccini’s Walk
チック・コリア:Chick Corea(p) (allmusic.comへリンクします)
エディ・ゴメス:Eddie Gomez(b)
ポール・モチアン:Paul Motian(ds)
2010年5月ニューヨーク録音