予備知識のない初心者が聴いてもすぐに楽しめる
Skala / Mathias Eick
昨年9月の《東京JAZZ 2010》に、ノルウェーからの3組のうちのリーダー・バンドとして出演したマティアス・アイク(1979~)。これは3年ぶりとなるECMからのリーダー第2弾だ。この間、アイクはジャガ・ジャジスト(JJ)の一員としてファン待望の東京での大箱クラブ公演を行い、野外のロック・フェスティヴァルで日本のファンに雄姿を披露。ジャズ・サイドだけにとどまらない広がりを見せた。9人編成のJJではメインのトランペットのみならず、ヴィブラフォンやウッドベースもこなしてバンドに貢献し、リーダー・ライヴとはまた違う、フットワークの軽いマルチな才能を印象付けたのだった。
今作は前作『The Door』に比べて、いくつかの変化が認められる。引き続き参加したのはアウドゥン・アーリエン(el-b)だけで、他はメンバーを一新。また楽器編成もアイク+3リズムの4人を基本とした前作に対して、今回はテナーやハープが入ったり、ダブル鍵盤、ツィン・ドラムスの曲もあるなど、トリオ、クインテット、セクステット、セプテットとヴァラエティ豊かだ。
メンバー7人のうち、唯一全8曲に参加したアンドレアス・ウルヴォは自己のトリオや、昨年末に来日したエプレ・トリオ(2008年の第2作にはアイクがゲスト参加)、若手女性ソプラノ奏者フレイ・オーグレのグループ等で、近年その名を目にする機会が増えている新世代ピアニスト。前作のピアニストがヴェテランのヨン・バルケだったことと合わせて、メンバーの平均年齢が若くなったのも本作の特色と言える。
本作中最大の編成による#1はアイクのクールなトランペットと、ヤン・ガルバレク譲りのトーレ・ブリュンボルグのテナーが美しく共鳴。ツイン・ドラムスというと爆音をイメージしてしまうが、この曲では逆に繊細な表現に終始する。アルバムのタイトル・ナンバーでもある点で、作風の象徴なトラックだ。
同じツィン・ドラムスでワン・ホーン・クインテットの#2はテンポ・アップした分、ビートのずれが生まれて、この編成ならではの効果が顕著。さらにエフェクターを使用し、キーボードが加わった#4ではニルス・ペッター・モルヴェル(tp)の流れを汲む近未来志向のサウンドへと発展して本領を発揮する。このクインテットは昨年5月にノルウェーで観ているのだが、その時は60年代マイルス・デイヴィスのロスト・クインテットに通じる音楽性を感じていて、本作で印象が変化した。エコー感のあるトランペットが中心のサウンドは、何の予備知識のない初心者が聴いてもすぐに楽しめるほどメロディアス。この特色を打ち出したことは、ファン拡大に繋がるに違いない。
【収録曲一覧】
1. Skala
2. Edinburgh
3. June
4. Oslo
5. Joni
6. Biermann
7. Day After
8. Epilogue
マティアス・アイク:Mathias Eick(tp,vib,g,b) (allmusic.comへリンクします)
アンドレアス・ウルヴォ:Andreas Ulvo(p)
モッテン・クヴェニル:Morten Qvenild(key)
2009~2010年、オスロ録音