●ウエイン・ショーター、マックス・ローチ、スティングの言葉
「ギル・エヴァンスの音楽に出会ったときは、電球の明かりが灯ったようだった。そこで遡って、彼がクロード・ソーンヒルのバンドとやっていた演奏に耳を傾けた。すると、シャンデリアの明かりがいっせいに灯ったんだ」 ウエイン・ショーター
「ギルは、52丁目に不可欠な存在だった。当時、若い作曲家はみんな、ギルにつきまとっていた。そのなかでもっとも貪欲な一人が、あのマイルス・デイヴィスだった。マイルスは、ギルの音楽に新しい可能性を見出していたんだ」 マックス・ローチ
「ギルほど若々しい老人に会ったことはない。彼にはいろいろ教わったが、そのひとつは、決して音楽の探求をやめるなっていうことだった。そうすれば、若さを失わないでいられる。つまりギルが教えてくれたのは、学びつづけろ、進化するために努力しつづけろってことだった」 スティング
●内容と魅力
『キャッスルズ・メイド・オブ・サウンド』は、偉大な作編曲家であり、ジャズのサウンドを一変させた陰の立役者の伝記である。
ギル・エヴァンスは、かつてマイルス・デイヴィスから「世界一のミュージシャン」と称されたにもかかわらず、表舞台に登場しないジャズの革命家として、長年にわたって“裏方・仕掛け人”でありつづけた。
ギルは、クロード・ソーンヒル、レスター・ヤング、チャーリー・パーカー、リー・コニッツ、ハービー・ハンコック、デヴィッド・ボウイ、スティングといったさまざまなアーティストと仕事を共にした。そして、彼らの音楽をアレンジし、バンドを活性化させ、ステージやスタジオにつかの間のカオスをもたらした。またギルの魔法のタッチは、マイルスとの共作(『クールの誕生』『ポーギーとベス』『スケッチズ・オブ・スペイン』等)によって不朽の名を刻み、ジャズ界に想像を絶する影響を及ぼしている。
本書は、オーケストレイター、バンド・リーダー、コンポーザーでもある、この比類ない名アレンジャーの生涯と足跡を辿る。1927年に若きギルがルイ・アームストロングやデューク・エリントンに対して抱いた初期の音楽的関心から、1988年にニューヨークで開かれた彼自身の追悼会における涙を誘う賛辞に至るまで、この独学のミュージシャンがほぼ60年にわたり歩んだ道程を網羅する。
そして、多くの仲間のミュージシャンが屈することになったエゴ、ドラッグ、金、名声や権力といった誘惑に左右されず、その限りない情熱と一途な思いによって音楽の未知の領域に到達する人物像を鮮明に伝える。
著者ラリー・ヒコックは、スウィング、ビバップ、クール・ジャズへと向かうギルの発展を幅広く検証し、マイルスとの機知に富む交流を描き尽くす。さらに、60年代から70年代における、知る人ぞ知るギルの音楽的貢献を明らかにし、その業績を詳述する。
60人に及ぶインタヴューから証言を引き出し、遺族やミュージシャン仲間の真実の声を捉える、この静かなる刷新者の肖像は、ジャズ史において過小評価されてきたギル・エヴァンスの位置づけを正すものである。