ウー!マン/アーチー・シェップ&ヨアヒム・キューン
ウー!マン/アーチー・シェップ&ヨアヒム・キューン
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大ヴェテラン2人の初のデュオ作
Wo! Man / Archie Shepp & Joachim Kuhn

 シェップのデュオ作か、と思ってスルーしてほしくない。世の不景気はどこ吹く風のごとく活況衰えぬジャズCD界は、ぼくの媒体をフル稼働しても紹介しきれないほどの新譜秀作を提供してくれている。だから今週、本作を取り上げた意味を感じてほしいのだ。

 1937年生まれのシェップは本作録音時73歳、7歳年少のキューンは66歳だった。たいへんなキャリアを築き上げている大ヴェテラン2人の、初めてのデュオ作である。

 話は67年にさかのぼる。60年にセシル・テイラーの下でプロ・デビューしたシェップは、ニューヨーク・コンテンポラリー・ファイヴ、ジャズの10月革命、ジャズ・コンポーザーズ・ギルドと、フリー・ジャズの嵐が吹き荒れた米国のど真ん中で、黒人問題に正面から対峙する姿勢を鮮明にした。一方、母国東ドイツで活動していたキューンはアメリカのメインストリームから影響を受けながらセシル・テイラーも吸収。66年に亡命し、フリー・スタイルに傾倒する。67年7月にジョン・コルトレーンが逝去した時は、葬儀に参列し、シェップ・クァルテットのヴィレッジ・ヴァンガード公演に立ち会って、歴史の生き証人となった。

 シェップはこれまでダラー・ブランド、ホレス・パーラン、ヤスパー・ファントフといったピアニストとデュオ・アルバムを制作し、マックス・ローチ(ds)、リチャード・デイヴィス(b)、ニールス・ペデルセン(b)を語らいのパートナーにしてきた。キューンにとっては何と言ってもオーネット・コールマン(as)との『カラーズ』(96年)が極め付きだ。そんな2人が2009年7月のクァルテットでの共演を経て、2010年11月にフランス中北部ムドンのスタジオに入った。

 カヴァーを3曲にとどめて、それぞれのオリジナルと2人の共作を中心とした選曲に、一丁上がり式ではない特別な制作姿勢がうかがえる。キューン作曲の#1はシェップが胃袋から搾り出すようなテナーで魂を震わせると、キューンは低音域を強調した重厚なピアノで呼応。#2のシェップをリー・コニッツと共通する枯淡の境地と聴くことも可能だろうが、ぼくはこの老兵独特の男臭さと色気を感じてならない。オーネットの名曲#6を、中低音域でこれほど切なく響かせたテナー・ヴァージョンは初体験。クレジットは共作だがほとんど即興の#7では、キューンがマシンガン奏法のオレ流を貫き、それに触発されてシェップの咆哮が緊張感を高める。メドレーで続く#8は作曲者デューク・エリントンへの敬愛も重なって胸を打つ。キューンが45年間ファンであり続けてきたシェップとの対話。一味違うキューンの魅力を発見できること、間違いない。

【収録曲一覧】
1. Transmitting
2. Nina
3. Drivin’ Miss Daisy
4. Sketch/Monette
5. Harlem Nocturne
6. Lonely Woman
7. Segue
8. Sophisticated Lady

アーチー・シェップ:Archie Shepp (allmusic.comへリンクします)
ヨアヒム・キューン:Joachim Kuhn (allmusic.comへリンクします)

アーチー・シェップ:Archie Shepp(ts)
ヨアヒム・キューン:Joachim Kuhn(p)
2010年11月フランス録音