サウンズ・アンド・サイレンス/ミュージック・フォー・ザ・フィルム
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「沈黙に近い」ECMからのサウンドトラック
Sounds And Silence / Music For The Film

 ECMから同時発売された同名映像作品のサウンドトラックCDである。ECMファンならば、作品名の由来にすぐに思い当たるだろう。レーベルの初期キャッチ・コピーだった「the most beautiful sound next to silence」だ。「沈黙に近い」がECMサウンドの大きな特徴であることを、このタイトルは改めて知らしめる。

 DVDの内容を紹介しておこう。オーナー・プロデューサー、マンフレート・アイヒャーの仕事ぶりを、スイスの映像作家が約5年間フォロー。オフィス、スタジオ、コンサート会場でのアイヒャーとミュージシャンのやり取りが、ロード・ムービーのように描写されるのが特色だ。アルヴォ・ペルトの楽曲をコーラス付きのオーケストラが教会で演奏するシーンで始まり、ニック・ベルチュのスタジオ録音の場面ではプレイバックを聴きながら、アイヒャーがミリ単位での厳密な修正を指導。音楽に対する妥協しない制作姿勢を鮮明にして、レーベルの伝説を補強する。本人のインタヴューが挿入されるアヌアル・ブラヒムや、アルゼンチンでのライヴ・シーンでECMとの強い結びつきを印象付けるディノ・サルーシのような個性的なミュージシャンとの関係も、この映像作品は物語ってくれる。

 このサントラには映像に登場しないミュージシャンの音楽も収録されている。#1と#12のキース・ジャレットだ。言うまでもなくキースはレーベル草創期から現在までコンスタントにレコーディングしている最重要所属アーティストであり、音源は数多い。それらから敢えて現在ではあまり省みられない80年録音のG.I.グルジェフ集を何故選んだのか。本作のコンセプトに合致するという判断があったのは間違いないが、そこにアイヒャーの親心が作用したのではないかと、つい推測したくなる。

 これはECMの既発音源からの編集作だが、今回初登場の2曲を収録しているのが見逃せない。それはカラインドルーの#8、9。2008年フランクフルトのライヴ音源で、ヤン・ガルバレク(ts)、キム・カシュカシャン(vla)、アテネ・カメラータ・オーケストラが参加している。ジャズ的興味が濃くないとはいえ、このメンバーは十分に食指をそそる。そのステージの様子はカラー写真を多用して映像作品を追体験できるようなブックレットに収録されており、キース同様の最重要ミュージシャンであるカラインドルーのイレギュラーな活動の記録として後世に残るだろう。

【収録曲一覧】
1. Reading Of Sacred Books
2. Fur Lennart In Memoriam
3. Arpeggiata Addio
4. Modul 42
5. Sur Le Fleuve
6. Creature Walk
7. Tango A Mi Padre
8. Farewell Theme
9. To Vals Tou Gamou
10. Ojos Negros
11. Cosi, Tosca
12. Reading Of Sacred Books
13. Da Pacem Domine

マンフレート・アイヒャー:Manfred Eicher (allmusic.comへリンクします)

キース・ジャレット:Keith Jarrett(p)
アルヴォ・ペルト:Arvo Part(comp)
ニック・ベルチュ:Nik Bartsch(p)
アヌアル・ブラヒム:Anouar Brahem(oud)
エレニ・カラインドルー:Eleni Karaindrou(p,comp)
2011年オムニバス作品