岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など
岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など
「バケツいっぱいのワラビを食べると発がん性が生じる」。そもそもバケツいっぱいのワラビを食べるという発想が現実的ではない((写真:getty images)
「バケツいっぱいのワラビを食べると発がん性が生じる」。そもそもバケツいっぱいのワラビを食べるという発想が現実的ではない((写真:getty images)

 感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。

*  *  *

 ワイン製造のときに亜硫酸を添加する、と書いた。

 亜硫酸は抗酸化作用、殺菌作用を持つため、ワインの味の安定のために微量添加される。例えば、酢酸菌(Acetobacter)はワイン(アルコール)を酢にしてしまう、人間目線では有害な微生物だ。こういう菌の混入や増殖を防ぐために亜硫酸が用いられる、というわけだ。

 飲食物の中にある、不要な微生物の発育を防ぐには、パスツールの考案した加熱殺菌、パスツリゼーションが有効だ。後述する日本酒でも加熱殺菌(火入れ)を行い、日本酒の味覚低下(火落ち)を防いでいる。

 しかし、果実酒のワインでの加熱殺菌は、風味を損なってしまいやすいため難しい。ワイン製造過程でパスツールが考案した加熱殺菌だが、現在ではむしろ乳製品など他の生産物に対して用いられている。加熱殺菌による風味の損失を防ぎつつ、雑菌の増殖を防ぐ。そのために添加されるのが亜硫酸というわけだ。
 
 しかし、亜硫酸による健康被害を不安視する向きもある。そのため、前述の有機栽培ワインには亜硫酸は入っていない。雑菌繁殖リスクはあるが、亜硫酸添加がないために健康にはよいワインだ、という意見もある。
 
 本当だろうか。

■物質がもたらしうる健康リスクを吟味
 
 亜硫酸がヒトの健康に有害である、と証明するにはいくつかの検証、データの吟味が必要だ。「理論的懸念」だけでは健康に有害と決めつけることはできないし、決めつけてはいけない。

 まず、その物質が「摂取量と(ほとんど)関係なく」もたらしうる健康リスクを吟味する。これはマウスなどの動物実験やヒトの事例研究で知ることが可能だ。ほんの少量でも致死的なフグ毒などが該当する。フグ毒が人体に有害なのは、火を見るよりも明らかで、ぼくらもフグを食べて神経毒のために入院した患者を何人も診てきた。
 

著者プロフィールを見る
岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

岩田健太郎の記事一覧はこちら
次のページ
過剰摂取が有害なワケ