隣の40代はドリフターズ話を延々としている。高木ブーのこと知らないって言ってるのに! つまらなそうな顔しているのが見えないのか? たとえ彼女たちがパパ活関係でないにしても、金銭の授受がなければ、これほど一方的な関係などないだろうと考えてしまう。約2時間の食事中、私は男性のおおよその収入を知り、社会的ポジションを知り、好みの映画を知り、生活のパターンを知るが……女性は自分のことはほぼしゃべらなかった。

 女たちが切り売りする時間。買い取った時間で語られるオレ様の偉大さ。そこで取引されているものは、何なのだろう。それぞれのテーブルの真ん中に置かれている鍋。同じ鍋をつつきながら、女と男の見えている世界は、なぜこんなにも違って見えるのだろう。

 店を出て、母がぽろりと言った。「隣の若い女の子、楽しいのかしら……」

 楽しくはないと思うよ。でも、そういう道が当たり前のように、この社会には敷かれている。そんな話をしながら、冬の夜道を母と歩いた。歩きながら鍋の味、覚えてないことに、気がついた。鍋に集中できる人生を送りたい。

週刊朝日  2019年2月22日号

暮らしとモノ班 for promotion
【Amazonブラックフライデー】先行セール開催中(28日23:59まで)。目玉商品50選、お得なキャンペーンも!