「Midjourney」や「Stable Diffusion」など、画像生成AIの開発が進んでいる。今までにないほど高いクオリティで絵が生成できるAIの登場で、アート界はどう変わっていくのか。2019~20年に森美術館で開催された「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか」のキュレーターでもあり、美術評論家で森美術館顧問(前館長)南條史生さんに話を聞いた。
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――「Midjourney」や「Stable Diffusion」など、今、AIによってクオリティの高い絵が世界中で作られています。このAIの登場を率直にどのように感じていますか?
ルネッサンス以降、世界中で「なんとなくこれがアートだろう」という「アートの領域」がシェアされてきました。その定義の中で、私たちは「アート的なもの」と「アートでないもの」を判断してきましたが、「Midjourney」や「Stable Diffusion」の登場は、「何がアートか」ということの再定義をしなくてはいけないということかもしれません。
今、流行しているNFTアートで考えてみましょう。NFTアートはウェブ上で売買されるデジタルアートですが、そうした作品は色が明快で、シンプルで、キャラクター的なものが多い。それはモニター上で分かりやすいからだと思います。その方が作品を売りやすいのでしょう。もし目の前に油絵があったら、きめ細やかなブラシの筆勢や、絵の具の盛り上がりが繊細で重要な要素になりますが、それはモニター上ではなかなか判別できません。そうすると、これまでアートと考えられていたタイプの作品の市場が弱くなりますよね。美学、つまり何が美しいかということさえも、実は、このテクノロジーによる特性でシフトしているんじゃないかと思っています。
多分AIアートも同じ美の基準のシフトが考えられます。そして最初は「AIが作ったアートなんてだめでしょ」と思っていても、やがて「AIの方がいいよね」という人が出てくる。それもまたモニター上でどんどん広がっていくと、ある種の大きなコミュニティーを作りだすかもしれない。一つの大きな領域に発展する可能性があると私は思います。
――AIが新しい芸術を生み出すということでしょうか?
私たちの想像を超える「芸術」を画像生成AIが作るというのは考えにくいと思います。AIはディープラーニングなので、すでにあるものを学習し、その蓄積を援用して描くわけです。だからこれまでに存在したものがベースにある。既存のアートを否定して、新しい美学を作る力がどれだけあるのか、疑わしい。
以前、人工知能の研究をされている先生と話をしたことがあるのですが、たとえばゴッホの偉大さは、それまで描かれていた絵とはまったく違う作品を作ったところにある。旧来の作風を断絶し、別な物にジャンプしたわけです。でもディープラーニングで積み上げてきたAIには、それはできないんじゃないかと思うし、もしできたとして、そのジャンプしたものが芸術であるかどうかは、AIにはわからない。結局は人間が決めるしかないんですよね。アートというのはとても人間的なもので、どこまでいっても判断をするのは人間側になる。そんな話を先生としました。