ジャーナリストの田原総一朗氏は、「組織防衛」という言葉が意味することを考える。
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厚生労働省は、統計不正問題について「解明、解明」と力説しながら、組織防衛のために解明をねじ曲げ、自らをどんどん破綻に追いつめているようだ。厚生労働省の官僚たちも安倍内閣の閣僚たちも、組織防衛ということがまるでわかっていない。
もしかすると、われら日本人の少なからぬ層が組織防衛という言葉を理解せずに使っているのではないか。
たとえば、日産の経営陣はカルロス・ゴーン氏を手厳しく糾弾している。彼が、実は年収20億円を得ながら、それを10億円と申告することになっていた、というのだ。だが、そんなことは現社長をはじめ経営陣は、早くから知っていたはずである。それを認めていたわけだ。それでいて、去年になってゴーン氏がフランス政府側に加担すると、一転、ゴーン糾弾を始めたのだ。もしもゴーン氏が有罪だとすると、経営陣もそれに加担していたことになる。
この矛盾に日産社員は沈黙し、マスメディアもそのことを指摘しない。おそらく経営陣の振る舞いを組織防衛だと捉えているのではないか。
以前、東芝が7年間にわたって粉飾決算を続けた事件があった。粉飾だということは中堅以上の社員ならば、はじめからわかっていたはずである。だけど、誰一人指摘しなかった。沈黙していることが組織防衛だと考えていたのだろうか。その時期にそのことを問うたら、そう答えたに違いない。だが、組織防衛のはずが、破綻に追い込んだのである。
しかも、粉飾決算が明らかになったにもかかわらず、どの新聞もテレビも粉飾決算とは言わず、不適切会計と言い続けた。それぞれ自社の組織防衛のつもりだったのであろう。
また、森友・加計疑惑で、野党やマスコミが安倍首相や夫人を激しく批判していたとき、自民党の幹部も議員たちも、誰一人「問題あり」だと表明しなかった。誰もが沈黙を続けていた。そこで、中堅幹部の何人かに「国民のほとんどが問題ありだと思っているのに、なぜ自民党は沈黙し続けているのか」と問うた。