それが功を奏したのか、いや、控えめな態度を取っていても受かったと思うけど、とにかく合格した。大学なんてすぐ辞めたよ。あとで聞いたら、8千人の応募があったらしい。合格者は男子8人、女子13人で合わせて21人だった。

 審査員に見る目がなかったら落ちてたかもしれないけど、でも、松竹や東宝に入って俳優をやってる自分は想像できない。肌が合わなかっただろうな。審査員がどうとかじゃなくて、俺は日活に受かって俳優をやる運命だったんだ。

――日活に入った当初は、端正な顔立ちを生かした二枚目路線。だが、その路線では伸び悩んだ。そこで宍戸は、人生の針路を変えるべく舵を切った。日活に入って3年目、美容整形手術で頬をふくらませ、二枚目とは自ら決別したのだ。

 昔から「第三の男」のオーソン・ウェルズみたいなアクの強い顔に憧れてた。ハーフだったらきれいなだけの顔立ちでいいだろう。だけど自分の持ち味はそこじゃないし、こぎれいな優男では一般大衆にウケない。自分には“何か”が必要だった。

 もちろん、会社には内緒だよ。新聞広告で見つけたビルの一室にあった病院で、ほっぺたにオルガノーゲンという物質を注入してもらった。一回じゃ物足りなかったから、ちょっとしてからもう一回追加で入れたんだよな。

 そりゃあ、病院のドアをノックするまでは迷ったよ。ビルの前を通り過ぎては、戻ったりしてね。でも、このままじゃ自分は俳優として長生きできない、主役にはなれないと思ってた。医者にも「美男子だから、そのままでいい」って反対されたんだけど、俺はやるって決めたんだ。

 俺はいい俳優になるためにやったんだ。美人になりたくてやる美容整形とは違う。「役者魂だ」とホメてくれる人もいたけど、「男のくせに美容整形なんて」と陰口をたたくヤツもいて、世間の批判も受けた。称賛よりも否定的な声のほうが多かったかな。

 あのとき、手術していなかったら、もしもの話はよくわからないけど、きっと別の方法を考えてたと思う。特徴のない半端な二枚目のままじゃ、すぐポシャってたのは確かだね。

――ふくらんだ頬は宍戸のトレードマークとなり、小林旭の渡り鳥シリーズの殺し屋役などで存在感を発揮した。「エースのジョー」という愛称も定着。宍戸、石原、小林、和田浩治、赤木圭一郎の5人はダイヤモンドラインと呼ばれ、日活のアクション映画は人気を博した。宍戸の華麗な銃さばきは、「早射ち世界第3位、0.65秒」という触れ込みだった。

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