ステロイドホルモンが治療として最初に使われたのが1949年。HenchとKendallは関節リウマチの患者さんにステロイドホルモンを投与しました。その結果、ベッドで寝たきりの患者さんが歩きだし一大ニュースになったと言われています。現在もステロイド治療で多くの患者さんが救われています。例えば膠原病(こうげんびょう)と呼ばれる自己免疫疾患に対して、ステロイド治療は大きな効果を発揮します。また、ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患に有効です。

 このステロイド薬、どうして炎症を抑えるのでしょうか? ステロイドが効果を発揮する場面を、体の中の細胞にぐっとフォーカスを絞り解説したいと思います。

 ステロイド薬が細胞に作用するには、受け手となるステロイド受容体が必要です。ステロイド薬とステロイド受容体は鍵と鍵穴のようなもの。鍵穴に合う鍵が差し込まれるとスイッチが入ります。鍵穴は普通、表面にあるものです。しかしステロイド薬の鍵穴であるステロイド受容体は、細胞のおもてにあるのではなく、細胞の中に隠れています。

 ステロイド薬は、あたかも映画「ターミネーター2」の液体金属のように細胞表面に結合し中へと入り込み、細胞内に隠れている鍵穴に差し込まれます。そのシグナルで多くの分子が動きだします。

 シグナルが入った細胞は、細胞特有の作用を発揮します。例えば、車の鍵穴に鍵が差し込まれればエンジンがかかります。鍵で動きだす大型コンピューターもあるでしょう。ステロイド受容体という鍵穴をもったそれぞれの細胞は、スイッチが入ることによって細胞特有の働きをします。

 このステロイド受容体は、実に多くの種類の細胞に存在しています。血管を構成する細胞はステロイド受容体を持っています。そのため、ステロイド薬が作用すると血管は収縮します。また、免疫細胞にもステロイド受容体があります。アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に関わるリンパ球。この中のT細胞やB細胞といった炎症に関連する細胞もステロイド受容体を持っています。免疫細胞のステロイド受容体にステロイド薬が作用すると、炎症のスイッチを切るシグナルが入ります。このため結果として炎症が抑制されます。

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