口の健康と認知機能の関係
口の健康と認知機能の関係
歯周病とアルツハイマー病の関連性
歯周病とアルツハイマー病の関連性

 認知症や認知機能の低下には、さまざまな因子が関係しているといわれています。なかでも近年注目を浴びているのは、歯や口の機能と認知症の関係です。予防はもちろん、認知症の進行を抑える意味でも「口の健康」は無視できないとされます。その理由について、週刊朝日ムック『60歳からはじめる 認知症予防の新習慣』では、国立長寿医療研究センター研究所・口腔疾患研究部の松下健二部長に取材しました。

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 高齢になると、口の中にはさまざまなトラブルが発生します。その代表的なものが歯周病です。

 歯周病とは、歯周病菌に感染することによっておこる炎症性の病気です。口の中の清掃が行き届かないと、歯と歯肉のすきまに細菌がたまり、それが炎症をおこして歯肉や歯槽骨を溶かします。土台を失った歯はグラグラし、最終的には抜け落ちてしまうことも。現在、日本人が歯を失う原因の約半数は歯周病だといわれています。

 歯周病の問題点は、単純に歯を失うというだけではありません。歯周病の原因菌や、炎症によって生じる物質が血管や食道などを通り、からだのあちこちに送り込まれます。その結果、誤嚥性肺炎や血管性の病気、糖尿病、メタボリックシンドロームなど、さまざまな病気の原因や悪化要因になっているのです。

 その一つが認知症です。上の図は認知機能の低下に影響を与える口腔内の要因ですが、「歯周病」という言葉が多いことに気づくはずです。つまり歯周病を予防することが認知症の発症の予防や、進行を遅らせるカギになるともいえるのです。ここでは歯周病とアルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー病)の、深くて怖い関係について説明しましょう。

 認知症の原因となる病気はいくつもありますが、もっとも患者が多いのがアルツハイマー病です。短期記憶などをつかさどる脳の海馬などを中心に、大脳全体に萎縮がおこる病気です。

 2013年、衝撃的な報告がありました。医学雑誌「ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ」に掲載された研究結果によると、アルツハイマー病の患者10人の脳を調べたところ、うち4人の脳から歯周病の原因菌である「Pg菌」が見つかったのです。同じ年齢で認知症ではない10人の脳からは、一切検出されませんでした。

「そこで私たちは、歯周病の原因菌がアルツハイマー病にどんな影響を及ぼすのかを調べるために、世界で初めての動物実験をスタートしました」

 そう話すのは国立長寿医療研究センター研究所・口腔疾患研究部の松下健二部長です。

 松下部長らのグループは、アルツハイマー病に罹患させたマウスの口に歯周病菌(Pg菌)を投与し、4週間後にマウスの認知機能を検査しました。すると、歯周病菌を投与されたマウスは、投与されなかったマウス(いずれもアルツハイマー病)と比べて、認知機能の低下が著しかったのです。

■脳のゴミ「老人斑」を歯周病菌が増やす!?

 次に、これらのマウスの脳を調べてみました。すると歯周病菌を投与されたマウスの脳には、非投与のマウスより、多くの「老人斑」が見られたのです。

 老人斑とは、アルツハイマー病の患者の脳に見られるシミのようなものです。アルツハイマー病の原因は、脳内に「アミロイドβ(ベータ)」というたんぱく質のゴミがたまることだと考えられていますが、これがたまってできるのが老人斑です。

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なぜ歯周病菌が脳内に?