林:手を抜くことはない?
大竹:ないですね。手を抜いてもいいような芝居って、ないんじゃないかな。
林:大竹さんのあの憑依の仕方、いつもすごいなと思うんですが、ご自身でも、コワい役をやったあと鏡を見てハッとすることってないですか。
大竹:自分で計算して、「こういう役だからこんな目つきで、こんな歩き方にして」というよりも、「演じたらそうなっていた」というほうが多いかもしれない。それがおもしろいですね。
林:観察するんじゃなくて、自分で「こうだろう」と思うとできちゃうんですか。
大竹:それが演じるということだと思うんだけど、「こうしよう、ああしよう」とあんまり考えないで出てくるのがおもしろいというか。たとえば前に人を殺すシーンを撮ったとき、演技なんだけど、刺した瞬間に「許して」と思ったんですね。もちろんセリフにはなくて、憎くて刺すんだけど、なぜか「許して」という感情が出てきた。そのとき、もしかしたら犯罪を犯す人も、刺した瞬間に後悔とか許しを請うことがあるのかもしれないと思いました。そうやって役を通して、自分ではわからない想像を超えた感情とか動きが出てくるときがあります。
林:まさにそれが女優さんなんでしょうね。映画「海街diary」(是枝裕和監督)でも、大竹さん演じるお母さんはチラッとしか出てこなかったけど存在感がありました。映画の中で、なんで娘たちがお母さんに近づかないのかと思ったら、お母さんのちょっとしたしゃべり方とか横座りした感じとかで、このお母さんのだらしない人生すべてが表現されていて、さすがだなあと思いましたよ。
(構成/本誌・松岡かすみ)
※週刊朝日 2018年10月12日号より抜粋