“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、リーマン・ショックを引き起こした流動性リスクに警戒する。
* * *
2008年9月、米国の証券会社リーマン・ブラザーズが破綻した。私がそれを電話で聞いたのは、家内アヤコと中部山岳国立公園内の弥陀ケ原ホテルの部屋にいたとき。「窓からの美しい紅葉とこのニュースは余りにアンバランス」と感じたことを覚えている。すぐ自らのポジションを閉じ、被害を最小限に抑えた。
当初はベトナムの友人宅を訪ねる予定だったが、ひょんなことから取りやめていた。1カ月前に同国を訪れた医学生の次男ヒロシが、帰国後に強烈な頭痛と下痢を発症したのだ(原因は生春巻だろう)。「高齢な私なら死んでいた」と、ベトナム行きを中止し、国内旅行に変えた。ベトナムにいたら機敏に動けず、べらぼうに高くついたなあと、今は生春巻に感謝している。
★ ★
リーマン・ショックから10年で、朝日新聞など新聞各紙が特集している。私は全国地方銀行協会の「地銀協月報」の09年8月号に「リーマン・ショック後1年を振り返って」を寄稿した。論文冒頭に書いたが、当時の私は他の識者とはかなり異質の分析だった。この論文では、
「日本のマスコミで『アメリカの資本主義は終わりだ』、『グローバル経済は終わった』とか『デリバティブの時代は終わった』という論調の記事が散見されます。しかし私は、このような『経済の構造的変化』は起きていないと思っています。たしかに実体経済の悪化は眼を覆うものがありますが『100年に1度』という造語が示すような構造的な大危機だとは思いません。サブプライム・ローン問題は、今まで述べてきたように、あくまでもテクニカルな問題であり、それを人々の恐怖感が深刻にしてしまっただけ、と思うのです。そうであれば、そのテクニカル的な問題を解決し恐怖感を除けばよいのです。そうすれば株価は再度上昇し、資産効果によって実体経済は急速に回復すると信じています」
と書いた。その後の世界経済は(特に米国は)その通りに歩んでいると思う。
リーマン・ショックに対する私の分析は以下の通り。