「警察署というのは、外からの攻撃をしのげる壁があちこちにある小さな“要塞”です。おまけに面会室の衝立のアクリル板を打ち破って逃げている。二重三重の警備体制をすり抜けた脱獄だった。おまけに8月30日には、樋田と間違えて追いかけた高校生が事故で亡くなった」
8月12日夜、弁護士との面会を終えた樋田容疑者は、天井をたたいたりして逃げ場所を探し、アクリル板をこじ開けて逃走した。
それに富田林署が気が付いたのは午後9時半過ぎ。当直責任者の課長が、署内を捜させたが見つからず、府警本部に連絡したのは、午後9時43分だ。
「樋田容疑者はおそらく過去にも一人で面会室にいたことがあるのだろう。アクリル板を破るというのは、簡単に思いつく手口じゃない。アクリル板は頑丈に設置しているので、どこか隙間を予め作っておいて、そこから破って逃げた計画的な逃走の可能性もある」(前出の府警幹部)
樋田容疑者が逃走した日も富田林署の正面玄関が見える1階には当直責任者の課長はじめ、10人近くがいたとみられる。弁護士が面会を終えて帰ったのが、夜8時過ぎだとみられる。
そこから1時間半も樋田容疑者の逃走に気が付かなかった。
「留置管理の担当が一番悪いが、弁護士が正面玄関から帰っているので、他の当直者も面会終了に気づいていたはずです。甘いと言われると返す言葉がありません」(前出・府警幹部)
容疑者の留置場は「検室」といって毎日チェックされる。なにか隠し持っていないかなどを検査されるのだ。留置管理の経験がある、捜査関係者はこう話す。
「検室はだいたい、夜7時とか夕食後に実施します。樋田容疑者は、弁護士との面会後に検室があったはず。弁護士面会は原則30分が目安だし、なぜこんな長く放置されたのか、信じられませんよ。かわいそうなのは樋田容疑者を調べていた担当刑事。はじめて大きな事件を手掛け、樋田容疑者を追い詰めていた。それが逃走されガックリしていた」