

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「帰省」。
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我が家の帰省は地味だ。所帯をもって十数年、都内に住んでいるが、私の実家は千葉。家内の実家は群馬。ともに電車で片道1時間~2時間弱。車もないので、在来線を乗り継いでぼんやりしていると着いてしまう。
「乗車率200%」とか、「この先渋滞20キロ」とか、『THE・帰省』なかんじが羨ましい。西陽に照らされながら、苦い顔して食べるサービスエリアのソフトクリーム、憧れる。
私は寄席のお盆興行があるので、先に家族を私の実家に帰す。姑との仲も悪くないのか家内も別に問題ないらしい。私も寄席の出番が済んだら実家にむかう。浅草から野田へ。つくばエクスプレスと東武アーバンパークライン(東武野田線)を乗り継ぐ。田舎線路を場違いな横文字が駆け抜けて、午後9時過ぎに帰省。
私には姉が3人。それぞれ夫と、子供が2~3人ずつ。甥姪もほぼ成人。リビング10畳+ダイニング6畳に最大で18人の大人。そこへ我が家の子供3人が加わる。たぶん町中で一番うるさい場所が我が実家だ。「あー、来た来たっ!」。酔っ払っている姉や姪たち。やれこないだ出ていたテレビがどうとか、ラジオがなんだとか、コラムがワンパターンだとか、「5ちゃんねるのスレッドが過疎ってるのは人気が下降気味な表れだ」とか、大きなお世話だ。義兄や甥はおしなべておとなしいのはなぜだろう。
遅れ馳せながらビールで乾杯。わずかに残った刺し身を拾うように食べる。大皿の宅配握り寿司はもうイカと巻物くらいしか残ってないが、シャリが大きくて腹にたまる。地元の名物ホワイト餃子が嬉しいが、翌日の口臭が心配。唐揚げに天ぷらに煮物。ほうれん草のおひたし、白菜のお新香にサラダ、サラダにはロースハムとバナナがのっている。昔からバナナだけは解せない。その上のゴマドレはなんなんだ。天ぷらは冷めたやつを、翌日甘辛く煮たのが好きだ。天ぷらは少し残して明日の朝だ。締めで蕎麦が出た。玉ねぎと豚肉を炒めた具に醤油味の熱いつけ汁。1把は食べたか。