会社側が時季変更権を行使できるのは、その有休取得によって業務に著しい支障をきたす場合だけに制限されている。しかし、この変更権があることで、労基署が会社側を指導しにくい状況が続いてきた。
例えば上司が有休を認めてくれない場合、有休を拒否しているのか、時期を変更させようとしているのか、見分けがつきにくいという。
労基署を所管する厚生労働省も、会社への指導が難しいことを認める。
「有休を取らせないことが常態化しているなど、悪質なケースは総合的に判断します。その基準については一概にはお答えできません」(監督課)
日本労働弁護団の今泉義竜弁護士はこう指摘する。
「時季変更権は本当に代替要員がいない場合など、例外的にしか認められていません。これまでも乱用されてきましたが、労基署は積極的に指導してこなかった。本来は労働者側が好きな時期に休めるように、会社側は余裕を持って人員を配置すべきだというのが、労基法の考え方です」
有休は6カ月以上勤めると、まず年10日与えられる。その後、段階的に増えていき、最大6年6カ月以上の勤続期間で年20日になる。
厚労省によると、有休の取得率は16年で49・4%にとどまる。有休を取りたくても取れない人は、やはり大勢いるのだ。
この状況が改善されるかもしれない動きもある。法改正で来年4月からは、従業員に有休を取らせるよう、会社に義務付ける。年10日以上有休がある従業員には、5日間は時季を指定して取得させなければならない。5日未満の従業員がいれば、1人あたり最大30万円の罰金が会社に科される。
前出の今泉弁護士はこう期待する。
「厚労省がきちんと法律を周知することが重要です。有休の計画取得を進めようという呼びかけが、末端まで届かなければなりません。労基署も企業に指導しやすくなると思います」
法改正でトンデモ上司たちが減ってくれるといいのだが……。
(本誌・亀井洋志)
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