著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は美容家・IKKOさんの「菜香新館」の「北京ダック」ほか。
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あれは19歳で福岡から横浜に出てきて、元町の美容室に住み込みで働いていた時のこと。仕事が満足にできず、毎日叱られっぱなしで……まずはシャンプーの指名でトップになれるよう頑張りました。そんなある日、当時中華街で人気だった「珠江飯店」の名物ママが、初めて私を指名してくださったんです。これがご縁で、お店や系列の「菜香」に伺うようになりました。「菜香」は中華街でもまだ珍しかった飲茶を出していたんです。
初めて食べた北京ダックは衝撃的でしたね。お金がないから2巻きだけいただいて。チャーシューまんじゅうのふかふかの生地と甘辛いタレも印象的でした。蒸したてのマーライコーは、手でちぎって食べると口の中で溶けてく感じ。私にとっては修業時代に食べた心に染みる“涙の味”っていうのかしら……。
当時の中華街のママたちには本当に良くしていただきました。決して涙を見せず、つねに喜びや感動を与えるおもてなしの心を持つこと。この教えは私の中で一生の糧となっています。
(取材・文/今中るみこ)
※週刊朝日 2018年8月3日号