「春眠暁を覚えず」というほどぐっすり眠れればいいが、不眠に悩んでいる人は多いだろう。実は白内障などの目の病気が、睡眠の質を下げていることが近年わかってきた。好評発売中の週刊朝日ムック「眼の病気&老眼がまるごとわかる2018」から、目の病気と不眠の関係をお届けする。
寝つけない、寝てもすっきりしない、途中で起きてしまう──。こうした睡眠の悩みの原因として新たにわかってきたのが、目の病気だ。実は、目と眠りは深く関係している。
「眠りと覚醒のリズムをつくる体内時計は、光を浴びることによって調整されています。その光の入り口になるのは目だけなので、目から適切に光を入れることが体内時計の調整には重要なのです」と話すのは、白内障と睡眠の関係を研究する慶応義塾大学医学部眼科学教室の綾木雅彦医師だ。
良質な睡眠のカギとなるのが、眠りを誘発する「メラトニン」というホルモンだ。その分泌に、光の中に含まれるブルーライトが作用している。ブルーライトが目の網膜を通して脳の体内時計に届くと、「いまは昼ですよ」と伝達される。反対に夜になってブルーライトが目に入らなくなると、脳の中の松果体(しょうかたい)という部分からメラトニンが分泌されて眠くなる。
ところが、白内障になるとブルーライトが網膜まで正常に届かなくなる。白内障は水晶体が黄色や茶色ににごる病気のため、ブルーライトが水晶体を十分に透過できないのだ。
「光を浴びても脳まで信号が伝わらず、昼間でも昼か夜かわからないような光環境になります」(綾木医師)
このように光の環境が崩れると、体内時計が乱れて睡眠の質が落ちるというわけだ。
綾木医師は、白内障手術後の睡眠の変化を調べた。睡眠の質は、ピッツバーグ睡眠尺度という方法で評価する。数値が低いほど、睡眠の質がよい。もともと睡眠の質が悪かった人の手術後の変化を追ってみると、手術後に睡眠時間や眠るまでの時間が改善したことがわかった。