ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。2月に設立された「ヒューメイン・テクノロジー・センター」について解説する。
【写真】ソーシャルメディアを代表する企業となったフェイスブックの本社
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フェイスブックやグーグルの元従業員、投資家らが中心となって、「ヒューメイン・テクノロジー・センター」が2月4日に設立された。ソーシャルメディアをはじめとするプラットフォーム企業に、改善を求める団体だ。
彼らは「テクノロジーが人間の心と社会を乗っ取っている」として、ソーシャルメディアやスマートフォンの悪影響に警鐘を鳴らしている。かつて世界的なプラットフォームの開発に携わり、尽力してきた人たちが、なぜ今、そのあり方に疑問を呈しているのか。
彼らの問題意識の中心にあるのは、激化するソーシャルメディアのアテンション(関心・注目)獲得競争だ。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、スナップチャット、グーグル、ユーチューブなどのプラットフォームは、無数にあるコンテンツの中から利用者の興味関心に沿ったコンテンツを提供するよう、独自のアルゴリズムを構築している。その結果、利用者が24時間365日ソーシャルメディアにつながることを強いられ、絶えず他者からの評価を気にする「中毒」とも言える強い依存状態に陥っている、とセンターは指摘する。
こうした環境は自然発生的なものではなく、ソーシャルメディアによって意図されたものだ。広告によって収益を上げるソーシャルメディアにとって顧客は「広告主」であって、利用者は言わば「売り物」に過ぎない。利用者が頻繁に訪問し、長い時間を過ごし、たくさんのコンテンツに触れ、さまざまな活動をしてくれれば、広告の表示機会が増えるだけでなく、行動データに基づく精度の高いターゲティング広告が可能になり、売り物としての価値が高まっていく。
さらに、利用者のアテンションを獲得するためのアルゴリズムは、人間の負の感情を喚起するコンテンツを選択する傾向にあるという。
センターの中心人物の一人であり、フェイスブックの初期投資家として2010年までマーク・ザッカーバーグCEOのアドバイザーを務めたロジャー・マクナミー氏は「フェイスブックは動物的本能、つまり原始的な恐れや怒りの感情に訴えている」とニューヨーク・タイムズ紙に語っている。「中毒になるよう設計されたシステム」だったからこそ、分断の拡大や、フェイクニュースの拡散、ロシアによる選挙介入に利用されたのだという主張だ。
センターはこのような問題意識に基づき、中毒性のある製品やサービスを控えるようテクノロジー業界に呼びかける方針だ。学生や親、教師にテクノロジーの危険性を教育するキャンペーンをして、プラットフォーム企業の権限を弱めるためのロビー活動も行っていくという。
かつての開発当事者たちによる問題提起だけあって、主張の説得力も抜群だ。ソーシャルメディアを取り巻く問題の核心はここにある。彼らの主張にテクノロジー企業がどう応えるのか、今後に注目したい。
※週刊朝日 2018年2月23日号