みんなで盛り上がるという目的ではなく、純粋に歌う楽しみを追求するスタイルの人も根強く存在する。
演歌・歌謡曲などのカラオケファン向けの情報誌「月刊歌の手帖」は、アマチュア向けの歌謡リーグ「Kリーグ」を主催する。自分の歌声をカセットテープやCD‐Rに録音して応募すると、プロの作曲家らが審査。歌唱力に応じて段位が与えられるしくみが人気で、全国から数多くのファンが応募している。
村田弘司編集長は「一つの歌にじっくりと取り組む人が多いので、Kリーグの人気曲はヒットチャート上位曲とは傾向が違います。また、今や50代から60代の人はビートルズやフォーク世代なので、ド演歌よりもフォーク系やバラード系の歌謡曲を好む傾向が強くなっている印象です」と話す。
シニア向けのカラオケ教室やサークルも、活況だ。
東京都江戸川区内の「北川歌謡教室」は、毎週レッスンを開いている。昼下がりのスナックを訪れると、60~80代までの9人が発声練習を繰り返していた。
「ア、エ、イ、オ、ウ!」
「生麦、生米、生卵!」
近所に住む人たち同士で、和気あいあいとした雰囲気。みな教室で知り合った仲間ばかりだという。
同教室の西川宏恵会長は「きちんと発声練習をすると、声の出し方が全然変わってきます」と話す。指導を受けながら自分の好きな曲を歌う表情は、みないきいきとしていた。
歌うことを無理強いするカラオケ野郎は姿を消したが、思い思いに楽しむ歌好きは消えていない。全国カラオケ事業者協会の片岡史朗専務理事はこう話す。
「今は70歳でもまだまだ若い。これまで働きづめだった方が退職して地域に戻ったとき、カラオケは地域に溶け込めるコミュニケーションツールになります。歌うことで唾液の分泌もよくなるとも言われ、歌詞を覚えるには頭も使う。それ以上にストレス発散になる。少し上手になって拍手をもらうと自信につながり気持ちもいい。間口が広く誰でも楽しめますが、極めようとすると、奥が深い。それがカラオケの楽しさなのです」
歌は世に連れ、世は歌に連れ。同様に、カラオケも時代を映して変わり続けている。最近遠ざかっている方、たまにはマイクを握ってみるのもよいかも。(本誌・太田サトル)
※週刊朝日 2017年11月17日号