ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。津田氏は先月25日に起きた大規模通信障害を例に、インターネットの「もろさ」を指摘する。
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8月25日正午過ぎ、インターネットの接続が不安定になる大規模な通信障害が発生した。インターネットに接続できない、一部サービスにつながらないといった報告が各地で相次いだ。
インターネット接続サービス最大手のOCNは、同社の通信の一部で12時22分頃から「断続的に利用できない状況が発生」したと報告。その原因を「海外の経路不安定事象」とし、12時45分に復旧したと説明した。大手通信事業者のKDDIも、同様の障害があったことを明らかにしている。
この障害によってネットを利用したさまざまなサービスが影響を受けた。一部のオンラインバンキングやネット証券サービス、動画配信サービス、オンラインゲームやスマホゲームに接続障害が発生。JR東日本のモバイルSuicaがチャージできないといったことも報告されている。いずれも同日夕方までには復旧した。
夕方までには収束したとはいえ、全国規模の障害ということもあり、その原因に注目が集まった。翌26日、米IT大手のグーグルが、この障害が同社の「ネットワークの誤設定」に起因していることを認め、謝罪したのだ。“犯人”は意外なところにいた。
誤設定は「8分以内に正しい情報に更新した」とのことだが、詳細は明らかにされていない。専門家はグーグルが誤った「経路情報」を大量に流したために、障害が引き起こされたのではないかと指摘している。
我々が普段ネットを使う際この経路情報を意識することはないが、ネットにとっては非常に重要な存在だ。インターネットはそもそもの仕組みとして、大手インターネット企業や通信事業者の大規模ネットワークを相互に接続することで成り立っている。
インターネットに接続しているネットワークはそれぞれの事業者が管理しているが、ネット全体を管理する組織は存在しない。それぞれの事業者が最低限のルールに従って相互に接続することで、広大なネットが形成されている。「みんなが正しいことをする」ことを前提とした性善説的な仕組みとも言えよう。
今回の障害は、そのもろさを浮き彫りにすることにもなった。グーグルが誤った経路情報を流したことで、本来経由すべきでない遠回りなネットワークを経由して通信が行われ、さらにその経路上で輻輳(ふくそう)が生じたために、障害が発生した可能性がある。
わずか8分間の設定ミスが世界中のネットワークに影響を与えてしまう。それだけネットの世界におけるグーグルの影響力は大きいのだ。ネットが世界中で使われる大事なインフラになったからこそ、こうした「もろさ」を克服するための仕組み作りが求められる。
※週刊朝日 2017年9月15日号