武井咲(23)が希代の悪女を演じるドラマ「黒革の手帖」(テレビ朝日系)が好調だ。原作は昭和の巨匠、松本清張のピカレスク・サスペンス小説。銀行の派遣社員、原口元子が横領した1億8千万円を元手に、最年少の銀座の高級クラブのママに転身。銀行の借名口座を記した“黒革の手帖”を武器に、夜の世界でのしあがってゆく物語だ。
過去4回にわたりドラマ化され、時代を象徴する女優がヒロイン・元子を演じてきた。その全てを視聴した碓井広義上智大学教授(メディア文化論)は語る。
「なんといっても1982年に元子役に挑戦した山本陽子さんが印象に残る。OL経験があるだけに楚々とした銀行員を演じる一方で、銀座のママとして魅せた艶やかさが良かった。84年の大谷直子さんは、まさに社会の底辺から這い上がる松本清張のピカレスク小説を体現していました」
96年には浅野ゆう子、そして、2004年の米倉涼子による元子は記憶に新しい。
「それまで米倉さんの芝居は、さほどでもなかった。だが、このときは体を張って元子を演じ切る気迫が伝わってきました」
不朽の名作だけに、過去の女優との比較はつきもの。だが、武井も負けていない。7月10日の記者会見で、「できるの?と、試すような目が多い気がする。元子のように打ちのめしたいなって思っています」と、射ぬくような視線を見せた。宣戦布告どおり、7月20日の初回視聴率は、11.7%(ビデオリサーチ社調べ)と合格ラインの2桁発進。27日の2話はさらに数字をあげた。コラムニストのペリー荻野さんもこう分析する。
「武井さんには、米倉さんのように、仁王立ちする強さはない。しかし、まだ美少女のしっぽが残る危うさが、素人から最年少の銀座のママに転身する元子の役柄にうまく重なっている」
ペリーさんは、決して勧善懲悪ではない、悪をもって悪をたたく、松本清張作品ならではの魅力を存分に魅せてほしいと話す。
「米倉さんは、『黒革の手帖』で平均視聴率15%を稼ぎ出し、女優として確固たる地位を確立させました。06年には同じ清張作品の『けものみち』で夫殺しの女を演じています。2人は、同じオスカープロモーション所属の先輩、後輩の関係。武井さんにも、米倉コースで女優として脱皮するのを期待しています」
次は、武井の「けものみち」を期待したい。
※週刊朝日 2017年8月11日号