パワーと明日への希望に満ちたマイルスの抒情
The City Of Pori (Sapodisk)
マイルスが「さぁいくぞ」といわんばかりにキーボードをキャイーンと鳴らし、そこからジャーンと突き上げ、まずはオープンで正確にテーマ・メロディーを吹く。おお、じつにいい音、理想の展開ではないか。ステレオ&サウンドボード録音、しかもバランスもバッチリということからマイルスならびにロバート・アーヴィングが弾くキーボードやシンセサイザーが細部までくっきり聞こえる。よってマイルスが鳴らしっぱなしにするキャイーンが目立ち、とくに《スピーク/ザッツ・ホワット・ハプンド》では4分7秒から8分30秒前後まで鳴り響き、それはもう。しかも今夜のキャイーン、バランス的に最前線で全体を覆いつくし、はてさてこれをうるさいと感じるか快感と感じるかだが、当方の聴くときの気分によってうるさくも心地よくも感じるというところでしょうか。ちなみにマイルスのキャイーンは《スター・ピープル》、ジョン・スコフィールドのブルージーかつ切っ先鋭いソロの背後でも鳴りまくっているが、こちらはギター対キャイーンのバランスが保たれ、ああ、いつ聴いても快感。
1984年7月12日フィンランドはポリで開かれたジャズ・フェスティヴァルでのライヴ2枚組88分9本勝負。最初にサポディスク、数日後にメガディスクから相次いで登場したということは、ごく最近になってヨーロッパあたりで放送されたのだろうか、《ホワット・イット・イズ》が尻切れトンボ、《タイム・アフター・タイム》がフェイドインというのは、そもそも番組がそのような構成だったのだろうかなどと考えながら《スター・ピープル》を聴いているうちにスコフィールド、ソロを勝手に着地させてそのまま《ホワット・イット・イズ》突入、おやおやここで全体のバランスがやや崩れ、「まさか復旧不能じゃないだろうな」と疑心暗鬼になったところでどうにか復調、ホッと胸をなでおろす自分が愛おしい。ブートに手を出していない人は絶対に理解できない、いや理解したくないだろうが、こういう心配しながらマイルス聴いたこと、あります?
いつも必殺の《タイム・アフター・タイム》は前述したようにフェイドイン・ヴァージョンだが、このオープン・ペットのソロ、泣きまっせ。まさにマイルスの抒情ここにありといった名演だが、マイルスの抒情の場合、その中心にはパワーと明日に向かって生きる希望が充満している。だから暗くなく、気持ちが萎えたりしおれることもない。パワーと希望が湧いてくる抒情、それがマイルスの表現であり芸術というものなのだと大きな声でいいたくなった。
【収録曲一覧】
1 Speak / That's What Happened
2 Star People
3 What It Is (incomplete)
4 It Gets Better
5 Something's On Your Mind
6 Time After Time (incomplete)
7 Hopscoth-Star On Cicely
8 Jean Pierre
9 Code M.D.
(2 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg)
Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Steve Thornton (per)
1984/7/12 (Finlnad)