ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。今回はヘイトスピーチ問題に対する各国の対策について論じる。

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 ネット上のヘイトスピーチをどうするか。ここ数年フェイスブックやツイッターなど、個人の情報発信を手助けするプラットフォーム事業者にとって、もっとも頭を悩ませる問題になっている。

 そんななか、事業者にとって良い材料が出てきた。フェイスブック、ツイッター、グーグル、マイクロソフトの4社に対し、サービス上に書き込まれたヘイトスピーチの24時間以内の削除を度々勧告してきた欧州委員会が最新の報告書を発表したのだ。

 これによればフェイスブックは報告を受けてから24時間以内に投稿内容を審査した件数の割合が58%となり、昨年12月時点の50%から上昇した。ツイッターも同様の調査で昨年12月の23.5%から39%まで改善。4社すべての企業で、ヘイトスピーチを削除した数が大幅に増加したという。

 欧州委員会は昨年12月の調査の発表時に、ヴェラ・ヨウロヴァー調査担当委員が不満を漏らし、4社の対策が進まないようなら法規制を行うことをにおわせていた。

 今回の報告書発表を受け、ヨウロヴァー委員は「差はあるものの、すべての企業で改善がみられた」と述べた。この調子で改善していけば、欧州委員会が一足飛びに法規制することはないだろう。

 とはいえ、事業者たちが安穏としている時間はない。

 欧州委員会とは別の動きとして、ドイツでヘイトスピーチに対応しない企業に対し、最大60億円の罰金を科す法案が審議されているからだ。

 オーストリアでは、フェイスブックに書き込まれた「緑の党」のリーダーへのヘイトスピーチを巡る名誉毀損(きそん)裁判で、裁判所がヘイトスピーチと認定できる書き込みを削除するよう5月5日に命じた。

 判決は大きな衝撃を関係者にもたらした。裁判所が個別の書き込みを削除するだけでなく、フェイスブック上のすべて──つまりは全世界で利用されているフェイスブック上すべてからヘイトスピーチに当たる書き込みを削除するよう命じたからだ。

 
 一国で下された判決がグローバルに展開するサービスに対してどこまで影響を与えうるのか、専門家でも意見が分かれているが、今後のフェイスブックの運営方針に影響を与えることは必至だ。

 欧州ではヘイトスピーチ対策の厳格化がトレンドになっている。今後もこの傾向は続くのだろうか。

 実は欧州委員会は2015年12月8日に採択した「ヘイトスピーチに対する闘いに関する一般政策勧告」において、「ヘイトスピーチに対するいかなる取り組みも、限定つき権利である表現の自由に正当に課せられ得る制限を決して超えてはならない」と、過剰な規制への懸念を表明している。まずはあからさまな差別表現の削除からということなのだろう。表現の自由とネット上の人権侵害。バランスをどこで取るべきなのか、欧州も悩みながら対策を進めているのだ。

週刊朝日  2017年6月16日号