文科省内部のメールや文書、イタリアでのG7サミットに出席した安倍首相と昭恵夫人 (c)朝日新聞社
文科省内部のメールや文書、イタリアでのG7サミットに出席した安倍首相と昭恵夫人 (c)朝日新聞社
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 2007~14年に愛媛県、今治市と加計学園が共同で15回にわたり構造改革特区の提案をしたが、実現しなかった獣医学部新設。文科省の前川喜平・前事務次官氏が「総理のご意向」などの内部文書を部下から示された昨年9~10月ごろから、獣医学部新設は実現へ急ピッチで進んでいく。何が起こったのか。

 09年、構造改革特区の第16次募集に愛媛県と今治市が手を挙げた際の資料には、獣医師の供給不足や獣医学部の地域偏在などを理由に挙げる提案に、文科省が反対した理由が記されていた。

<貴県ご指摘の教育機会の均等について四国地方がその他の地域と比して、直ちに均衡を失しているという状況にはなく>

<獣医師の需給に関し全体としては明確な供給不足といった見解は示されていません>

 3年後、12年の第22次募集でも、両者の間で同様のやりとりがなされた上、文科省はハッキリとこう言い渡している。

<これまで重ねてご回答申し上げてきたとおり、ご提案について特区制度を活用して実現することは困難であると考えます>

 だが、ここまで完全に粉砕されてきた提案が、安倍政権下で国家戦略特区制度が始まった途端、一転して実現する。どういうことなのか。『国家戦略特区の正体』の著書がある立教大学の郭洋春(カクヤンチュン)教授がこう語る。

「構造改革特区は地域からの提案を吸い上げるボトムアップ型だったのに対し、国家戦略特区は国が主導して決めるトップダウン型。前者の推進本部にはすべての閣僚が参加すると規定されていたが、後者の諮問会議は議長である首相と官房長官、特区担当大臣のほかは、首相が指名した大臣だけが議員になれるなど、より官邸主導色が強い制度になっています」

 ただ、トップダウンの制度に変えたからといって何でもやっていいわけではない。郭教授はこう続ける。

「今まで国として『獣医学部の新設は認められない』と言ってきたことを変える根拠が一切説明されていないし、より緻密な提案をしていた京都産業大の獣医学部新設案が除外された理由も不明なまま。透明性や中立性、公平性が確保されておらず、特定の地域や事業者への利益誘導が疑われてしまう。他の特区と比べても、極めて異常な事案です」

 圧力と脅しで黒いものを白と言わせる政治。これが安倍首相の言っていた「美しい国」なのだろうか。ある自民党幹部はこう語る。

「選挙の時の『報復』を恐れて表立っては言わないが、さすがに安倍首相は強引、傲慢すぎるという声が高まっている。もっと早く収束をはかれば良かったのに、文科省を強引に抑えつけ、後から次々と資料が出て大失敗。森友問題と同じだ。水面下では次の総裁選の話題で持ちきりですよ」(本誌・小泉耕平、村上新太郎、大塚淳史/今西憲之)

週刊朝日 2017年6月9日号