ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国でも始まったフェイクニュース対策に注目する。
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欧州でドイツを中心に進むフェイクニュース対策の潮流が、米国でも顕在化し始めた。米ニューヨーク市立大学(CUNY)のジャーナリズム大学院が4月3日、フェイクニュース対策に取り組むコンソーシアム「ニュース・インテグリティ・イニシアティブ」の創立を発表したのだ。
コンソーシアムの最大の特徴は、グローバルかつ広範囲にわたってさまざまな団体や個人が参加すること。ニュースメディアの信頼性向上と、ニュースを読み解くメディアリテラシーの促進を目的として、プラットフォーム事業者や学術機関、ジャーナリズム組織、資金提供者などが集結した。
世界最大のSNS・フェイスブック、世界3位のシェアを誇るブラウザーの開発元・モジラ、世界最大の独立系デジタル広告企業のアップネクサス、ソーシャルニュースサイト「ディグ」を傘下に持つベータワークスなどのIT企業が入った。ネット案内広告のクレイグスリストの創業者が運営するクレイグ・ニューマーク財団、ナイト財団、フォード財団、デモクラシー・ファンド、Tow財団などが、それぞれ運営資金を提供している。合計で1400万ドル(約15億円)ものお金が確保できた。
これだけの規模と資金源、広がりを持つものができると、具体的にどのような活動をして、フェイクニュースに対抗していくのかが気になる。コンソーシアム設立で中心的な役割を果たしたのは、フェイスブックのニュースパートナーシップのトップであるキャンベル・ブラウン氏だ。開設にあたり「人々がネット上で目にする情報を分別するために必要なツールの提供を目指している」という声明を発表した。
フェイスブックにとって自らのサービスで流れるフェイクニュースやヘイトスピーチといった質の低い情報は、企業の価値を下げる面倒な存在だ。
だからといってそれをフェイスブックが主体となって選別すると、表現の自由や検閲といった別の問題が生じてしまう。それを避けるために、フェイスブックは世界中のニュース専門家たちを集めてノウハウを共有するコンソーシアムを作ったとも言える。「ニュースの選別」という機能を専門家にアウトソーシングすることで、流れる情報の質を守りつつ、表現の自由にも配慮する──それが今後の情報プラットフォーム業者のトレンドになっていくのだろう。
※週刊朝日 2017年4月21日号