では、時短を進める企業では何が起こっているのか。Tさん(52)の勤める金融系リース会社では、数年前から時短を取り入れている。それまでは毎日21~22時まで残業していたのだが、労基署の監査が入ったことをきっかけに、20時以降は原則残業禁止となった。

「時短になると聞いたときは、早く帰れてラッキーと思いました。が、実際に始まると大変でした。明日までにやらなければならない仕事があるのに、帰れと言われるのです。仕事がどんどんたまっていき、お客さんとのアポを延期してもらうという、本来あってはならないこともしていました。当時は周りもみんな同じで、時短なんてやめて残業させてほしいと思っていましたね」(Tさん)

 しかし、3カ月もすると20時退社のペースに慣れてきた。仕事の優先順位を考えて、無駄な作業を極力排除したのだ。

 たとえばお客さんのところへ4回顔を出していたのを3回にする。自分がしなくていい仕事は人に代わってもらった。

 昨年10月から「20時退庁」に踏み切った東京都庁でも、総務部などに懸念の声が寄せられている。

「午後8時を過ぎたら15分おきに消灯されるので、都議会の資料作成などで仕事が山のように増えても残業できなくて困る」

「クオリティーはある程度犠牲にせざるを得ない」
「早朝出勤や休日出勤が増えないか懸念」
「年度後半は業務量が大幅増になるので継続が心配」

 同じく1年前から定時退社を導入したある企業は、サービス残業、休日出勤、持ち帰り残業も厳禁という徹底ぶりだったが、社員によると、残業できなくなったからといって増員されることはなかった。

「上司は時間内に終わらせられるように配慮して指示を出さなければならなくなり、部下にたとえばプレゼン用に三つ案を作れとは言えなくなった。部下からも提案が減り、最低限、言われたことしかやらなくなる。皆で意見を出し合うミーティングは時間がかかるので廃止となり、コミュニケーションが悪くなった」(関係者)

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