ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。米国である人気ユーチューバーが契約解除された騒動を解説する。

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 2月14日、米ディズニー社が、世界で最も稼ぐユーチューバーとして知られる「ピューディパイ」との契約を解除したことがわかった。

 ユーチューバーとは、ユーチューブで自ら制作した動画を継続的に公開している人たちのこと。ユーチューバーはユーチューブとクリエーター契約を結ぶことで動画の再生数に応じて広告収入を得られる。再生数の多い人気ユーチューバーには定期的な収入が入るため、テレビタレントのようなスターが数多く登場することとなった。

 今回騒動を起こした「ピューディパイ」はそんなユーチューバーたちの頂点に君臨する。番組を見るためにチャンネル登録している人は5300万人以上で、投稿した動画の視聴回数は累計140億回を超えており、推定年収は約17億円とも言われている。

 再生回数の多いユーチューバーはテレビ並みの発信力を持つため、企業がユーチューバーと契約を交わし、宣伝やマーケティングを手伝ってもらうケースも増えている。実際にピューディパイはディズニー社の子会社メーカー・スタジオズ社と契約し、同社はピューディパイのグッズ販売や動画制作、アプリの制作などに関わっていた。しかし、ウォールストリート・ジャーナルが「ピューディパイの公開する動画に差別的な内容・ヘイトを含むものがあった」と報じたことにより、両者の契約関係は解除されてしまったのだ。

 
 問題視されたのは、動画内でインド人の2人組が「すべてのユダヤ人に死を」と書かれたサインを掲げたり、キリストに扮した男性が「ヒトラーは悪いことをしていない」と話したりする動画がワイプで紹介されたことだった。これらの差別動画はいずれもピューディパイが「ファイバー」という見知らぬ他人に簡単な仕事を5ドルで依頼できるクラウドソーシングサイトを利用して作られた。

 ピューディパイは本件について「ファイバーに登録している人たちはたった5ドルでどんなことでも言ってくれる──現代社会がいかにクレージーか表現しようとした」とコメント。自身はいかなる憎悪をあおる行為も支持しないし、あくまでエンターテインメントであって政治的な意図はまったくない、と制作の意図を説明したが、「炎上」は収まらず契約解除に。この騒動でディズニーとの契約解除だけでなく、ユーチューブの有料動画配信サービスで配信されていたピューディパイの主演番組「スケア・ピューディパイ」の第2シーズン製作打ち切りも決定した。彼の影響力が大きかっただけに、スポンサーも毅然(きぜん)とした対応をする必要があったのだろう。

 ピューディパイ自身は「ちょっとした悪ノリのジョーク」程度に思っていたのかもしれないが、スポンサーの反応は厳しいものだった。ユーチューブがテレビを凌(しの)ぐ影響力を持ちつつある今、発信者には番組の内容について放送局以上の高い倫理コードが求められているのかもしれない。

週刊朝日 2017年3月10日号