50歳を過ぎると、人生でやり残してきたことは何だろうと、すこしずつ考えはじめるものです。会社をつくって経営してみたい、と思う方もいるでしょう。シニア起業。かっこいいです、あこがれます。では、実現には何が必要でしょうか。朝日新聞編集委員の中島隆(53)が答えを探してみました。
会社の名は「One Tap BUY(ワン・タップ・バイ)」。スマートフォンのアプリをちょっと操作すれば、1万円から簡単に株を買えるスマホ証券です。
社長の林和人はいま52歳で、50歳のときに証券業にチャレンジ。動機は、リベンジ(復讐)でした。
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大阪府豊中市生まれ。やんちゃで、高3の成績はほぼビリ。猛勉強し、1浪して関西大商学部に入りました。4年間は、大阪・キタの、小さな焼き鳥屋でバイトの日々。常連の学者のつてで、岡三証券に入ります。香港に赴任し、夜討ち朝駆けで財界人をかたっぱしから客にし、香港証券界の風雲児になりました。
やがて、山一証券の香港現地法人にヘッドハンティングされますが、ほどなく山一は自主廃業に。高給取りだったので、香港のある証券会社を買いました。
ネットで売買するネット証券に業態を変え、日本のお客に中国株をすすめようと考えました。けれど、「日本に会社がないとダメ」と金融庁は言います。
そこで、沖縄・名護市に証券会社をつくりました。中国株のブームで業績は右肩上がりとなり、株式公開も視野に。さなかの2008年秋、リーマン・ショックが起きます。個人資産をなげうって増資したものの、悪いことはつづきます。東日本大震災、円高、尖閣諸島をめぐる日中問題……。
財産はほぼ消えました。
香港証券界の元風雲児。そして、ネット証券界の先駆者の一人。そんな林は、誓います。
(リベンジだ!)
なけなしのカネをあつめて会社をつくり、15年に証券業界へ。
ネット証券はデイトレーダーであふれている。一日何回も売買し、短期的な利益に一喜一憂する。でも、それは投資じゃなく投機。日本に投資が根づかないのは、投機ばかりするからではないか。