ニーム・アリーナ 1986
ニーム・アリーナ 1986
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アンコール・ナンバー《デコイ》の怪しい気配がじつにいい&裏話
Arenes De Nimes 1986 (Cool Jazz)

 人間、誰しもイジワルをしたくなるときがあるものらしい。ネットで個人的にコレクションしていたライヴ音源を流すときなどに多い.....かもしれない。かなり頻繁に耳にする話をひとつ。好意で流してくれるのはいいが、なかには意図的に音質を劣化させたものや不完全な状態にしたものを流す人もいるらしく、ではそれが違法コピー対策のためかといえばまったくそんなことはなく、いざ流すとなるとやはり惜しくなるものらしい。これまた誰もが経験する「いざとなったら惜しくなる病」の一種だが、そういえば不要になったレコードやCDや本を処分するときって、よくそういう心境になることありませんか。

 それはともかく最大の被害者は、そうして流された不完全な音源をソースとしたCDを買ってしまった人たちで、かりに「完全収録のコンプリート・ヴァージョン」と謳っていなかったとしても、なんとなく残尿感のようなものは残る。実際、そういうケースは多々ある。ジャズ系ではまだ少ないようだが、ロック系では決して珍しいことではなく、いちばん賢いのは、すぐに買わず、しばらく様子をみてから手を出すという、まさに主婦感覚の付き合い方で、しかしこれがなかなかできず、ついつい「すぐ欲しくなる病」を発症、いろいろと厄介な事態を(あくまでも自らの性格で)引き起こす事態に突入するわけです。

 このライヴが、まさしくそのようなターゲットとなった問題物件なのであります。最初に「初登場です!」と大きな声で出てきたのはいいが、最後の3曲が未収録という不完全だった。おそらくネット流通音源をソースにしたのだろうが、流した人がわざとそのようにしたのか、あるいはその人自身もまったく知らなかったことなのかはともかく、出たわけです。ところがその直後からうるさいマニアが「まだ3曲ある!」と騒ぎだし、そうして登場したのがこの完全版という長い裏話ではありました。

 アタマ、ちょこっと欠けているがマイルスには無傷なので誰も傷つかない(そうか)。音質は最上かつギターの細かいカッティング、ふだんはあまり聴きとれないロバート・アーヴィングとアダム・ホルツマンの細やかなバッキング、これまたいつもはよく聞こえないヴィンス・ウイルバーンの意外な小技まで鮮明に収録されている。マイルスのミュートがやや機械的に響くパート、《デコイ》で一時的に音飛び(?)する個所もあるが、それ以外はほぼ完璧とみていいのではないだろうか。その《デコイ》を含む3曲はアンコールとして演奏されたもの、とくに《デコイ》の怪しい気配がじつにいい。

【収録曲一覧】
1 One Phone Call / Street Scenes-Speak
2 Star People
3 Maze
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Al Jarreau
9 Burn
10 Decoy
11 Carnival Time
12 Jean Pierre
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Bob Berg (ss, ts) Robben Ford (elg) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/7/19 (France)

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