改訂版では03年版より疾患を増やし、新たな薬を調べた。03年版の薬も再検証し、「治療のエビデンスが大きく変わった疾患が、思った以上に多かった印象です」(有岡医師)。
ジゴシンの場合、03年版で「☆☆☆☆☆」だったが、16年版で「☆☆」に“格下げ”された。
「新薬が開発されると、従来品と新しいものとを比較する臨床試験が行われる。その結果、医学的にもっとよい効果をもたらす薬が出てきたら、従来品を用いる優先度が下がることは考えられます」(福井院長)
使うべきでないとの結果が臨床研究で示された「☆」はごくわずか。一方で、意外に多いのはエビデンスへの意見が医師の間で分かれる「☆☆」。必ずしも効果がないわけではないが、科学的な根拠の乏しい薬で、200ほどある。
具体的には、
「臨床研究が何らかの理由で行われずに効果が確認されていないが、専門家の意見や経験で支持される薬」
「妊婦や胎児への影響が大きい、救急時対応で必要となるなどの理由で倫理的に臨床研究できない薬」
「効果あり・なしの両方の結果が報告され、評価が定まらない薬」
などがあてはまる。
そもそも、効果が確認された薬だからこそ製造されているのでは? 「☆☆」の薬にはこんな疑問も浮かぶ。福井院長はこう話す。
「健康保険が適応になっている薬は、基本的には治験(臨床試験)を経て承認されています。ただ、承認審査で用いられたときの研究データや論文がないものは『☆☆』にしています」
ジゴシンのメーカー、中外製薬広報はこう回答する。
「ジゴシンの有効成分であるジゴキシンは以前から有効性が認められてきた薬です。1957年に最初に承認された当時も臨床試験が行われたでしょうが、今のような方法ではなかったかもしれません。服用に不安のある患者さんは、主治医に相談してください」
薬の有効性は、厚生労働大臣の指定により独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」が再評価している。3月には、慢性副鼻腔炎などで適応があった薬「ノイチーム」が、厚労省の審議会で有効性が低下したと判断された。製造しているエーザイは「見解を受け、自主回収を行いました」(PR部)と説明する。
11年には同様の理由で、武田薬品工業も「ダーゼン」の販売を中止した。新薬登場などで適応から外れ、淘汰される薬はある。
福井院長らの取り組みは、公的制度とは別の民間研究者による独自評価といえる。こうした取り組みを製薬業界はどうみているか。日本製薬工業協会は「コメントする立場にない」という。
※週刊朝日 2016年12月9日号