コンプリート・ファースト・ナイト・アット・ボトムライン1975
コンプリート・ファースト・ナイト・アット・ボトムライン1975
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やっとコンプリートになった75年「ボトムライン」初日
Complete First Night At Botom Line 1975 (One And One)

 この日のライヴの内容に関しては拙著『マイルスを聴けV8』のP562を参照していただきたい。お手元にない方のためにハイライトを後述するが、まずは概要から。この日のライヴはこれまで《マザー・ディアレスト・マザー》と《イフェ》が不完全状態だった。それら2曲が今回ようやくにして完全版となって登場した。ただし3曲目の《マザー・ディアレスト・マザー》は演奏が中断されたことによる不完全版とあって、これはどうしようもありません。ともあれマイルスが引退に向けて歩を進めつつあった75年6月の「ボトムライン」、いいかえれば『アガルタ』『パンゲア』以後の変遷を記録した歴史的なライヴがこうしてコンプリート化された意義は大きく、まずは発掘作業にあたっていただいたワン&ワンさんに盛大な拍手を贈りたい。パチパチ。

 さて、分厚く高価な『聴けV8』をお持ちでない不届き者、いや正常なマイルス初心者のための聴きどころ講座を始めることにいたします。前述したように完全版になったライヴではありますが、いちばんおもしろいのは、そうしたマニアックなことではなく、3曲目で起きるハプニングであります。以下、カンタンに。

 リズム・セクションが演奏に入り、レジー・ルーカスがテーマ・メロディーを弾く。次に「いざ突入」となるが、そこで中断、パーカッションのエムトゥーメが観客に事態を知らせる。こういう場合、本来であればグループのリーダーが案内すべきだろうが、マイルスが「あのですね」などと喋るわけがなく、ここはエムトゥーメというわけです。「えーアンプが故障しました。直しますので、ちょっと待っててください」。おいおい、これがあの強面にして剛腕が売りの75年マイルス・バンドなのか。まるで横山ホット・ブラザーズではないか(しかし古いなー)。

 アンプが故障したわけだが、たぶんマイルスが弾くオルガンのアンプなのだろう。というのもこのバンドはメンバーのアンプが壊れたくらいで演奏が中断するわけがなく、そのまま突進していく。ということは御大関係のアンプに不備がみられたこと以外に考えられず、まあそういうことなのだろう。

 もう一点は、《ライト・オフ》でマイルスがオルガンで弾いているフレーズ。これ、ハービー・ハンコックがオリジナル・ヴァージョンで弾いていたフレーズそのまま。つまりマイルスはしっかり記憶していたことになる。うーむ。あとは『聴けV8』を読んでください。

【収録曲一覧】
1 Prelude
2 Untitled Latin (aka Minnie)
3 Mother Dearest Mother
4 For Dave
5 Ife
6 Right Off
7 Maiysha
8 Untitled Latin (aka Minnie)
9 Untitled Tune (aka Hip Skip)
10 Mother Dearest Mother
(2 cd)

Miles Davis (tp, org) Sam Morrison (ss, ts, fl) Pete Cosey (elg, per) Reggie Lucas (elg) Michael Henderson (elb) Al Foster (ds) Mtume (per)

1975/6/10 (NY)

1-3:First concert, first set
4-6:First concert, second set
7-10:Second concert, first set

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