作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、小池百合子・東京都知事をテーマに持論を展開する。

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 清水ミチコさんの小池百合子さんのものまねにはまっている。本質を掴んだものまねは本物を凌駕し、本物への理解が深まるのだと気づかされる。息を漏らすように語り、着地に向かってテンポをゆっくりにし、「はじめから、わたくしの勝ちなんでございます」と薄笑いを浮かべるミチコ、恐るべし。しゃべり方が似ているのはもちろんだけど、そこはかとなく小池都知事に漂う“黒さ”が愛情深く表現されているのだ。清水ミチコさん曰く「なりたい人をものまねする」とのこと。その気持ちはちょっと分かる。都知事の世界、1日だけ体験してみたい。都民ファーストを前に押し出すほど、百合子ファーストにしか見えない押しの強い百合子ワールドから、世界はどう見えるのでしょう。

 先日、「あの人、私、知り合いだと思うんだよねぇ」と友だちが私の背後をジロジロ見ているので振り返ったら、宇都宮健児さんがお茶していた。肌つやよく、福々しい感じで、意外と、というのは失礼な物言いだけれど、存在感があった。都知事選の時、宇都宮さんを“地味なお爺さんだから選挙には勝てない”みたいな意地悪を言う人が多かったのは、つくづく残念だ。なんといっても世界は善良なお爺さんブームなのに。アメリカのサンダースさんに、世界一貧しい大統領のムヒカさん。枯れた雰囲気で善を説くお爺さん政治家が、熱狂的に若者に求められる時代でしょ。もし健児と百合子が戦ったら、面白い選挙だったろうなぁ、と思わずにはいられない。5歳しか違わないというのに、生々しさが桁違い。徳を積んできた感のある健児の笑顔vs.使える人脈を積み重ねてきた百合子の笑顔。パンダ系垂れ目のメイクなのに、優しさより厳しさしか感じない百合子……といった調子。短い選挙期間の中で、こういうイメージって案外、票を左右するものでしょう。

 
 それにしても新都知事の人気の絶大さには圧倒される。稲田朋美さんや丸川珠代さんは知人にいそうだけど、小池百合子さんにはレア感があるんだろうか。私の友人でも「政治的には信頼してない」と言いつつ「百合子(←呼び捨て)から目が離せない!」と盛り上がったりする。「百合子って、都庁でクレオパトラって呼ばれてるらしいよ」「カイロ大だけに?」みたいな小ネタで盛り上がったりと、何だかんだと8月は百合子月間だった。

 女性政治家のイメージは随分と変わった。例えば1989年の参議院議員選挙でマドンナブームを巻き起こした土井たか子さんはあの時60歳、今の小池さんより若い。媚びた笑みを見せず、おたかさんの名で親しまれた土井さんの安定感は、今の女性議員たちに(男性議員にも)求めるのは難しい。人々に親しまれるのではなく、権力者に愛されることを目指しているように見える自民党の女性議員のチイママ感を見るにつけ、マドンナブームその後の砂漠を、都知事の勝ち馬的な笑顔を通し突きつけられる。ミチコは面白いけど、百合子は怖い。

週刊朝日  2016年9月16日号