ライブ・イン・ジャパン~1961/アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
ライブ・イン・ジャパン~1961/アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ

A Day With Art Blakey 1961 / Art Blakey & The Jazz Messengers (M&I)
Recorded At Sankei Hall, Tokyo, Jan. 2, 1961

 J.A.T.P.(ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック)の来日コンサートの成功を機に外タレ・ラッシュが始まったかと言うと、そんなことはなかった。東京オリンピック前の我が国は発展途上国、魅力ある市場ではなかったようだ。60年までに来日したグループは年間で一、二にすぎない。それらもベニー・グッドマン楽団らのスウィング系、ジャック・ティーガーデン・セクステットらのディキシー系が中心で、モダン・ジャズ・グループは皆無だ。一方、モダン・ジャズ受容は着実に進展してもいた。典型例として、60年1月に3集にわたる『サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ』(58年12月/仏RCA)が国内発売されると追加生産を繰り返すセールスを記録する。故油井正一氏曰く「ソバ屋の出前持までが《モーニン》を口笛で吹きながら出前するほどポピュラーとなった」のだ。アート・ブレイキー(ドラムス)とジャズ・メッセンジャーズはそんなさなかに来日した。

 61年1月1日、羽田空港に降り立った一行はつめかけた人並みにどこぞの国賓でも来たのかと思ったらしいが、熱狂的な歓迎の相手が自分たちだと知って一様に驚いたという。

 ツー・ショットを所望したファンにブレイキーは「オレは黒人だぞ、いいのか?」と問い返したという逸話が残り、離日前に「演奏を聞く態度はもちろん、なによりも嬉しいのは、アフリカを除いて、世界中で日本だけが、我々を人間として歓迎してくれたことだ」(スイング・ジャーナル誌61年2月号)と言わしめ、ここに大の日本びいきになったのである。

 本作の音源は初日のコンサートの模様をTBSが放送用に録音したもので、81年に20年を経て発表された。最初はLP2枚組で出され、いまは上掲のCD2枚組などが入手可能だ。当日のコンサートは3部からなり、ビル・ヘンダーソンのヴォーカルをフィーチャーした

 第2部の7曲を除く第1部の5曲が1枚目に、第3部の4曲が2枚目に収録されている。

 オープナーは《ザ・サミット》、のっけから聴衆の興奮がビシビシ伝わる。ブレイキーが猛然と煽り立て、ジミー・メリット(ベース)が屋台骨を支えるビートを送るなか、ウェイン・ショーター(テナー・サックス)が斬新な感覚でブロー、リー・モーガン(トランペット)が熱気を迸らせ、ボビー・ティモンズ(ピアノ)が端正なタッチで駆け抜ける。幕開けに相応しいイケイケ系の快演だ。新鮮な解釈によるスタンダード《そよ風と私》で新型コルトレーンとでもいうべきショーターは水を得た魚の如くだが、モーガンとティモンズはいま一つピリっとしない。十八番の《ブルース・マーチ》、拍手と歓声が一際高まる《モーニン》で立場は逆転する。やる気なさげに映るショーターに対し、鋭いモーガン、次第に熱を帯びブロック・コードで沸点に達するティモンズこそ水を得た魚だ。第1部のラスト、やはり新鮮な解釈による《ペイパー・ムーン》は《そよ風》と似た結果になった。

 第2部のオープナー《ネリー・ブライ》もイケイケ系、《ザ・サミット》に通じる快演が繰り広げられる。続く《ダッド・デアー》はティモンズの独壇場、《ラウンド・アバウト・ミッドナイト》は箸休めに終わったようだ。親分の怒涛のドラミングをフィーチャーしたラストの《チュニジアの夜》ではショーターもモーガンも確かに熱いのだが決定打を欠く。

 演奏本位で見れば正真正銘の名盤ではない。熱演とはいえ物足りないのは過渡期の楽想に起因する。まだショーターに権限はなかったようでグループの志向はサウンドではなくてアドリブ、いきおい斬新な感覚が浮いてしまう。このあと一行は2週間にわたるハードな日程をこなし、ミュージシャン、ジャズ関係者、ファンに絶大な衝撃を残して帰米した。出来からすれば準快作だが、公演が我が国のモダン・ジャズ受容の転換点になったことに照らせば、伝説のコンサートの記録である本作はライヴ名盤に数えて然るべきだと思う。

【収録曲一覧】
[Disc 1] 1. The Summit 2. The Breeze And I 3. Blues March 4. Moanin’ 5. It’s Only A Paper Moon

[Disc 2] 1. Nelly Bly 2. Dat Dere 3. Round About Midnight 4. A Night In Tunisia パーソネル

Lee Morgan (tp), Wayne Shorter (ts), Bobby Timmons (p), Jymie Merritt (b), Art Blakey (ds)