Cannonball In Japan / Cannonball Adderley Quintet (Capitol)
1966年8月、ジョン・コルトレーン(テナー・サックス)の来日から1カ月ほど遅れてキャノンボール・アダレイ(アルト・サックス)が再来日を果たす。最後の来日にもなる。1年前にチャールス・ロイド(テナー・サックス、フルート)が抜け、セクステットからクインテットになっていた。ナット・アダレイ(コルネット)、キャノンボール、ジョー・ザヴィヌル(ピアノ)、ヴィクター・ガスキン(べース)、ロイ・マッカーディ(ドラムス)という面々だ。1963年7月の初来日時はファンキー・ブームの止めのかたちで熱烈歓迎を受けたが、既にグループは進化したハードバップというべき清新な楽想をかかげていた。その後もセクステット時代は同一路線を歩むが、来日前のライヴ作『マネー・イン・ザ・ポケット』(1966年3月/キャピトル)と『マーシー・マーシー・マーシー』(同年7月/同)からファンキーへの回帰とジャズ・ロックへの取り組みを見せるようになっていた。
2005年に発表された前者はもちろん、後者も発表されてはいない。数年来、グループのストレート・アヘッドな演奏に親しんでいたファンは、いきなりポップな演奏にもふれることになったのである。本作には8月26日の東京公演から6曲が収録された。お馴染みのヒット曲《ワーク・ソング》《ジス・ヒア》《ジャイヴ・サンバ》、やがてヒットする《マーシー・マーシー・マーシー》《マネー・イン・ザ・ポケット》《ザ・スティックス》というベスト集の趣きもあるライヴ作だ。『マネー・イン・ザ・ポケット』の8曲中5曲と『マーシー・マーシー・マーシー』の6曲中2曲はストレート・アヘッドだった。ここに至ってグループがポップ路線に転じたかのような印象は選曲による。当日の演目は決して色もの一辺倒ではなかったがストレート・アヘッドの5曲は廃棄されるか未発表になったのだ。米盤が発売されなかったことを思えば日本側の裁量ではないか。大胆な好選曲だと思う。
演奏順に見ていく。新曲《ザ・スティクス》ではナットがヤケにカッコよく、キャノンボールが奔放なブロウをかまし、ザヴィヌルも快演を見せる。4分足らずとは勿体ない。CDに追加収録された未発表曲《ボヘミア・アフター・ダーク》では兄弟に勝るスペースを与えられたザヴィヌルが快演を、純然たるストレート・アヘッドのせいかマッカーディが屈指の出来を見せる。とはいえ、ポップ系で固めたなかにあって場違いな感は否めない。やはり初お目見えの《マーシー・マーシー・マーシー》はルーチン通り、アダレイ兄弟はテーマ・アンサンブルに徹し、ザヴィヌルが得も言われないグルーヴを送り出していく。お馴染みの《ジス・ヒア》ではキャノンボールが再び奔放なブロウをブチかましナットも勇猛果敢に応じるが、聞き物は続くザヴィヌルだ。次第に調子を上げていき遺憾がない。多くが『ジャズ・ワークショップ・リヴィジテッド』(1962年9月/リヴァーサイド)で親しんでいた《ジャイヴ・サンバ》はこの日最大級の拍手喝さいを浴びる。まずまずだ。初物《マネー・イン・ザ・ポケット》ではナットが単刀直入な、キャノンボールがエモーショナルな、ザヴィヌルがファンキーなソロをとる。聞き物は後半を占めるザヴィヌルのロング・ソロだ。低空飛行と上昇の反復で煽っていく様はラムゼイ・ルイス(ピアノ)の《ジ・イン・クラウド》さながら、クールな聴衆も惜しみなく拍手喝さいを送っている。
総じて印象度はザヴィヌルが勝るがアダレイ兄弟は相変わらず思い切りがよく痛快だ。初来日時のライヴ作『ニッポン・ソウル』(本連載第4回参照)や『マーシー・マーシー・マーシー』の熱気には及ばないが、聴衆が口笛の一つも発さないとあっては無理もない。やがて「政治の季節」を迎える時期に照らしてファンの嗜好もハードでシリアスな方向に向かっていたのだろうか。ともあれ、我が世の春を謳歌していた頃の好ライヴだと思う。
【収録曲一覧】
1. Work Song
2. Mercy, Mercy, Mercy
3. This Here
4. Money In The Pocket
5. The Sticks
6. Jive Samba
7. Bohemia After Dark (bonus track)
Nat Adderley (cor), Cannonball Adderley (as), Joe Zawinul (p), Victor Guskin (b), Roy McCardy (ds)
Recorded At Sankei Hall, Tokyo, August 26, 1966