
ひょんなことから、JimmyJazzでオーディオ製品を取り扱うことになった。といっても、懇意にしてるインフラノイズ社の販売窓口を引き受けただけで、店内にスピーカーの在庫が山積みになったりしてるわけじゃない。注文をもらったら、インフラノイズに連絡して商品を直送してもらうだけだから、わたしがカミソリ片手に修理するようなこともない。全部メーカーにお任せである。
インフラノイズといえば、かのジョン・ルイスが同社の機材を「是非レコーディングに使いたい」と言って大ブレイクした大阪のオーディオブランド。近所ということもあって、昔からオーディオの面倒を見てもらっている。
同社は、どちらかというとジャズよりもクラシック寄りの商品開発をしており、わたしが「NG」を出すことも多いのだが、彼らにはわたしの判断の仕方が興味深いらしく、無理な注文にも嫌な顔ひとつしないで対応してくれる。よほど自社の商品力に自信があるのだろう。
ジョン・ルイスも、わたしと同じように、まんまとインフラノイズの研究対象にされてしまったひとりだった。
ルイスは元々、クラシックを志していたが、M.J.Q.初代ドラマーでもあるケニー・クラークにそそのかされてジャズの道に入ったのだという。大バッハを尊敬しており、バッハを題材とした演奏も数多く残している。
「ルイスが弾くバッハの平均律は、まるで1音1音が地に落ちるようだ」と言ったのはインフラノイズ社長。仰るとおり、まさに「Down to Earth」な音。
好きな色は?と訊ねたら、「Blueに決まってるじゃないか!」と答えたというルイス。モーツァルトは演らないのかと訊けば、「俺にモーツァルトが弾けるわけがない!」等、言うことがいちいちキマッてる。インフラノイズは、ジョン・ルイスと親交を深めながら、彼の生き方や感性を注意深く観察・吸収して、深遠かつ重厚なブルース・フィーリングを取り込んでいった。
それまでクラシック一辺倒だったインフラノイズ社長は語る。「今なら、もう少しジャズがわかるのに。ジョン・ルイスが生きてたら、あんたの演奏の、こんなに凄いところを発見したって話ができるのに」
インフラノイズは、音楽の種類によって、オーディオの再生能力が違ってくることに自覚的な国内唯一のメーカーである。
オーディオ製品を、たんなる精密機械だと思うから、「ジャズが完璧に鳴るなら、クラシックでも演歌でも完璧に再生できるはずだ」という理屈になる。そこにはブルースや、アーシーであることが介入する余地はない。それほど単純な問題でないことを、わたしはインフラノイズ製品を使って思い知らされた。
社長はルイスに、「ジャズがわからんから教えてくれ」と言うと、「何を言うのか、お前は全部わかってる」とも言われたそうだ。
【収録曲一覧】
1. Prelude No.1
2. Fugue No.1
3. Prelude No.2
4. Fugue No.2
5. Prelude No.6
6. Fugue No.6
7. Prelude No.7
8. Fugue No.7
9. Prelude No.21
10. Fugue No.21
11. Prelude No.22
12. Fugue No.22