でもね、最初は「バカボンのパパっていうか、ただの上田じゃないか」と思っていたけれど、ふと、これは「自分がバカボンのパパだと信じこんでいる上田なのだ。狂気の上田晋也なのだ」と思って見たら、すごくワクワクしてきたよ。
初めてのデートで、いきなり「今からバカボンとハジメちゃんの子作りをするのだ!」と宣言する狂気の上田。ちゃんと屋外でロケしているだけに、あっけらかんとしたボケ感皆無で、リアルな邪悪さが、最高。
もう突然グランドピアノでショパンの「革命」を一心不乱に弾くママだってアナーキーだし、ピケティの経済論について語る天才幼児・ハジメちゃん(早坂ひらら)も、ホラー映画の人形「チャッキー」の無邪気バージョンに見えてくるから不思議。「仮面夫婦を演じているタレント」という真に迫った役どころの船越英一郎に「家族の絆」を説いちゃうバカボンのパパも、上田だったらありかも。
一周回って、何もかもが嘘で、真実に見えてくる瞬間。それこそがきっとバカボン魂なのだ。
※週刊朝日 2016年4月1日号